私が稲妻町に越して来た時のことだ。
まだ幼かった私は、お母さんに手を引かれ、自分の家の隣、南沢さんの家に挨拶に行った。そこで知り合ったのが、篤志くんだった。

当時の篤志くんはというと、小学生なのに塾に通っていて、勉強はクラスで一番。サッカーだっていつも得点を入れるくらい上手かった。だけどとっても大人っぽくて、冷たい印象だった。…とりあえず、お母さん同士が意気投合して、それから南沢家とのお付き合いが始まったんだ。


お母さん同士が篤志くんの家のリビングでお話をしている最中、私はテーブルで宿題をする篤志くんを見ていた。たまにうっとおしいというようにこちらを見てきて、ちょっとだけ怖かったりしたけど、他にすることも無いから、ずっとずっと篤志くんを見ていた。
篤志くんは、宿題が終わったらお庭に出てリフティングを始めた。まるで自分の身体の一部とでもいうかのように巧みにボールを操る篤志くんは、とてもキラキラして見てた。すごい、と思いながらずっと篤志くんとボールを見続けた。


すると、そんな私に気づいた篤志くんは「お前もやってみるか?」なんて言って、私にサッカーボールを差し出してくれた。
私は篤志くんから受け取ると、彼の真似をしながらボールを蹴ってみる。だけど、当然ながら上手くいかず、ずっこけてしまう始末だ。

派手に転ぶ私を見て、最初こそ驚いていた篤志くんだったが、すぐに噴出して、それから私の頭を優しく撫でてくれた。



「下手だな、お前」
「ううっ…」
「…でも、頑張って練習すれば上手くなるさ」
「ほんとう?」
「ああ、俺もそうだったから」
「篤志くんも下手だった?」
「まあお前みたいにずっこけたりはしなかったけどな」


にこりと笑う篤志くんを見て、何だかとても楽しい気持ちになった。
これが、南沢篤志との始めての出会い。












庭に出てリフティングをするのは、日課になっていた。
今日も、天河原から帰ってから、ご飯のしたくが終わるまでの間、篤志くんに誕生日に、と貰ったボールを蹴る。すると、上から名前を呼ばれた。見上げると、篤志くんがこちらを見下ろしていた。


「篤志くん、練習終わったの?」
「ああ、名前もマネ業おつかれさま」
「えへへ、ありがとう。篤志くんもおつかれさま」

ボールを抱えて篤志くんを見ると、彼はなんだか懐かしそうに目を細めた。


「お前、上手くなったな」
「ん?」
「リフティングだよ。昔はずっこけてばかりだったのに」
「あれから篤志くんがずっと練習に付き合ってくれたおかげだよ」


そう言うと、篤志くんは首を振る。


「いいや、お前が頑張ったからだろ。毎日そこで練習してただろ?」


俺の部屋から丸見えなんだよ。
そう言って笑う篤志くん。その笑みが、昔の篤志くんの笑顔と重なって見えた。


「……ねえ、篤志くん」
「なんだ?」
「頭、撫でてもらいたい」
「…は?」
「頭、撫でて?」
「…なんでまた」
「ちょっとそういう気分になっただけ、だよ」


私がそう言うと、篤志くんは溜息を吐き窓を閉めた。
私は、篤志くんが降りてくるのを座って待つことにした。昔が懐かしくなって、撫でて貰いたくなるなんて…私ってまだまだ子供だなぁ。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -