「お前…髪の手入れしてるのか?」
部室のソファに寝転んでいると、星降が私の髪を触ってきた。
私は起き上がらずに星降を見やり、それから自分の髪に触れる。…うん、ガシガシ。
「んー、してない」
「…髪を洗ってから、何もしてないのか」
「だって面倒なんだもん」
「……それでも女子か」
「別に可愛くなくてもいいもーん」
私はふてくされ気味にそう呟くと、ソファから起き上がる。
そしてスカートを脱ぐ。…あ、下にジャージ履いてるからパンツとか気にしないでね。
星降はそんな私にため息を一つ。
「可愛い可愛くないは別にして…、お前はもう中学生なんだから、身の回りくらいはきちんとしたらどうだ」
「……誰にも迷惑かけないじゃん」
「………」
「…、だってオシャレとか、やり方わかんないし…」
「…そこで待ってろ」
星降はそう言うと、自分のロッカーを開けてカバンを取りだした。
そしてそこから少しだけ大きめのポーチを取りだす。
「星降、ポーチって…女子かよ」
「…」
私の言葉に何も返事をせず、星降はポーチを開けて櫛を取りだした。
そしてそれを使い、私の髪を梳かしはじめた。…だけど、途中でその手は止まった。…いや、止まらせてしまったのだ。…私の髪が。
「…がしがし」
「うっ」
「…はあ、」
星降はため息をつきながら、私のからまった髪を優しくほぐし始める。
そして、再び櫛を入れた。…今度は途中で止まらずに流れゆく。
「はぁー…」
「どうしたんだ?」
「いやぁ、私の髪がこんなに言うことを聞いてくれるなんて…」
「俺が梳かしたからだろ」
「さーせん。…でも、手入れしたらこんなに変わるものなんだね」
「毎日続けることが大事だ」
それから星降はポーチから小さな袋を取り出す。その袋の中から出てきたのは、ピンク色の…
「なに、それ」
「これはシュシュ。髪を装飾するためのアクセサリーだ」
「へえ」
星降はそれを手首につけ、それから再び櫛を手に取ると、私の髪を弄り始める。
「星降…?」
「すぐ終わるから」
「ん」
星降の手が優しく私の髪に触れる。少しだけくすぐったくて、でもなんだか心地よい。
すると肩のあたりが妙に涼しくなったのを感じる。…ん?
「ほら、完成」
星降が手鏡を開いてくれたので、中を覗いてみる。…これは…
「ぽぉーにぃーてえるぅー」
「言うと思った。…で、感想は?」
「こんなに変わるもんなんだね」
鏡の中にいたのは、星降のシュシュをつけたポニーテール姿の私だった。
結んでいないのと結んでいるのとでは、随分と印象が変わる。
「ありがと星降」
「それあげるから、これを機に身なりに気をつかってみたら?」
「え、でも貰っていいの?星降がつけるんじゃないの?」
「…俺は男だ。こんなのつけるわけないだろ」
「じゃあ何で持ってたの?」
「……(お前にあげるためだなんて、言えない)」