俺と一緒に天河原にやってきたシードの名前は、何故シードになったのか…そう問いたくなるくらいのんびりしたヤツだった。
だけど芯は強くてしっかりしている。…猪突猛進な俺のストッパーになってくれることも多い。それにサッカーも上手い。そして行き詰った俺の相談にも乗ってくれる。…俺が恋に落ちるのに、そう時間はかからなかった。…俺は彼女に依存していたのだ。


「おい、名前。帰るぞ」
「はいはい。では喜多先輩、失礼します」
「……ああ、今日まで本当にお疲れさま。隼総もお疲れ」
「……」
「こら、隼総。ちゃんと喜多先輩に挨拶しなさい」
「…」
「はぁ、もう。すみません喜多先輩、また後できつく言っておきますので」
「ははっ、気にしないでくれ。じゃあまたな」


さっさとどっか行っちまえ。
そんな意味を込めて喜多を睨み付けると、名前に怒られた。…チッ。そもそもお前が喜多なんかと楽しそうに話してんのがいけねぇんだろうが。

そう言ったら名前は困ったように笑いながら、俺に謝る。…そうそう、最初から謝れば良いんだよ。



「隼総はそういう王子様なところは直したほうがいいと思うな」
「別に誰にも迷惑かけてねぇんだから良いだろ」
「…これからだよ。いつまでも大人の加護の下にいられるわけじゃないんだよ。…世の中に出ないといけないし…」
「おいおい俺たちまだ中一だぜ?将来のこととか…早すぎるだろ」


そう言うと、名前の顔はどんどん曇っていった。
…こいつのこんな顔、初めて見る。俺の知ってるこいつはいつものんびりしていて…それで…。

俺が戸惑っていると、名前は申し訳なさそうに笑って俺を見る。



「言わなきゃ、って思ってたんだけどね」
「…」
「これ」


名前が手渡してきたのは、一通の手紙だった。表にはフィフスセクターの印が押してある。


「これ、何だよ…」
「フィフスの解任書。…ほら、この前の試合…負けちゃった、でしょ?…責任、取らなきゃいけなくなったの。私…」
「…ウソ、だろ?」


そこで俺は思い出す。
喜多が名前に言った言葉。…今日まで、お疲れ様…。まさか…こいつ!

俺は立ち止まると、名前の肩を掴んだ。


「隼総…」
「なんでお前だけ…!」
「…しょうがないよ」
「何で!」
「しょうがないんだよ」


悲しそうに笑う名前に、俺は何も言えなくなってしまった。
名前が言い難そうに喋り始める。


「だから、私…隼総の傍にいられなくなっちゃうから…これまでみたいにお世話できないんだ」
「…そんなの、って…」
「…もっと先輩に頼りなさいよ。もっと色んな人を尊敬して、井の中の蛙にならないで?…もっと、色んな人と接して。隼総は、優しい男の子なんだから。シードだからって張らずに、もっと普通の学校生活を楽しんで?」
「…お前がいないと、意味が無い。…好き、なんだ。お前が、名前が、好きなんだ」


震える俺の口から出たのは、その場にそぐわない告白の言葉だった。
どうしても、俺は彼女を引き止めたかったのだ。


「わ、私が…好き?」
「……」
「…そ、そっか…。…、うん。…私も、好きだよ。隼総のこと」
「…マジ、かよ…?」
「ウソついてどうなるのよ」
「…そう、だよな」


嬉しいのやら複雑なのやら、俺の心の中でさまざまな感情が渦巻く。俺が何も言えずにいると、名前が笑いながら俺の手を握った。



「良かった」
「…は?」
「シードでもなくなったし、天河原にもいられなくなっちゃったから…隼総ともお別れかなって思ってたんだけど…でも、これからも会えるね」
「……は?」
「…え?…だって、…隼総…私のこと好き、なんだよね?…だったら、まだ会えるってことでしょ?」


にこりとほほ笑む名前にコクリと頷くと、彼女は嬉しそうに俺に抱きついた。
…別に、会おうと思えば会えるはずだが…。いや、まあ……。俺は自分の胸の中にいる彼女を見る。


「…これからも、一緒にいよう」


たとえ、違う学校でも遠く離れても、一緒にいよう。
そう言うと、彼女はもう一度嬉しそうにほほ笑んだ。






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