俺の彼女は年上の人だ。とても綺麗で、当然大人っぽくて、俺には勿体ない人。
先輩は何でも知っていて、余裕で…リードされてばかりの俺は、いつも焦っていた。…もっと彼女と対等でいたい。そう思えば思うほど空回りして、先輩が遠くなっていく。
いつか俺の前からいなくなってしまいのではないか、俺に飽きてしまうのではないか…幸せな毎日、だけど、いつも怖かったんだ。



「いちばーん、頑張ってる〜?」


そんな時だった。天河原高校に通ってる先輩が、差し入れを持って天河原中にやってきたのは。
名前さんお得意のレモンのはちみつ漬けは、きちんと部員にいきわたる分を。そしてご丁寧に取り分け皿まで。

休憩時間に入ると、先輩の周りは差し入れを受け取りにきた部員でいっぱいに。


「せんぱいってぇ、喜多の彼女でしょぉ〜?喜多には勿体ないなぁ…」

思い切り甘えた声を出すのは西野空。こいつ、自分が可愛いと思ってそんな仕草してるんだろうが、俺にとってその猫なで声は神経逆撫で剤でしかない。


「これ美味しいな。…なぁ、喜多なんかやめて俺の彼女にならない?」

星降…自分がモテるからといって人の彼女を口説くんじゃない!それになんだ、喜多なんかって!


「先輩マジ美人だな。俺とお似合いなんじゃねーの?」

天河原のプリンスだか何だか知らないが止めろ隼総。



イライライライラ。
勿論こいつらは、名前さんに近づく目的だが、自分たちが先輩にベタベタすることによって悔しがる俺の顔を見るのも楽しいんだろう。…性質が悪いなホント。
ほら、今だって…ニヤニヤしながら俺をチラ見してくるあいつら。…行動を起こして欲しいんなら、起こしてやるからな。


「あ、一番お疲れ!ほら、一番にもレモンのはちみつ漬け…「ちょっと先輩、来てもらえますか?」?どうしたの、怖い顔して…」
「喜多〜嫉妬なんてみっともないよ〜?」
「…いいから来てください」
「??あ、みんな。ここに置いておくからおかわりご自由に〜、って、一番!引っ張らないでよ〜」


ひやかしてくるサッカー部面々は後ほど説教するとして、今は先輩だ。
誰にでも愛想をふりまいて、どれだけ俺が心配していると思ってるんだ。全く、危機感がなさ過ぎる。


先輩を引っ張ってきたのは部室の裏側。
いざ、ここまで連れてきてみたのは良いが…。さて、何を話して良いか分からない。

危機感が無い?他の男に愛想をふりまくな?
…よくよく考えてみると、これらは全て俺の嫉妬からくる感情論。…つまり、これを彼女に吐いてしまえば…俺はただの嫉妬心剥き出しの重い彼氏だ。


…ああ、やってしまった。



すると、何も喋らない俺を不思議に思ったのか、名前さんが俺の顔を覗き込んできた。


「どうしたの、一番」
「い、いえ…あの…」
「さっきすごく怒っていたみたいだけど…、もしかして私、何かした?」

申し訳なさそうに顔を歪めて俺を見てくる先輩に、胸がチクリと痛む。
俺は…先輩にそんな顔をさせたかったんじゃない…。ああ、もう…恥ずかしい。情けない…。



「一番…?」
「っ、すみません…。俺、他の部員に優しくする先輩が…嫌で、嫉妬…してました」
「…え?」
「それにいつも、…俺がリードされてばかりで…情けなくて…。俺、…っ」
「…情けなくなんか無いよ」
「…でも…」


震える俺の肩に、先輩の細い手が触れる。
驚いて顔を上げると、先輩はにっこりと微笑んでいた。


「私ね、一番にはいつもドキドキさせられるの」
「…え」
「優しくて紳士的に振舞ってくれて…いつも私を優先してくれて…。かっこいいなぁって。だから私も負けないように年上らしく…って振舞ってたんだけど…それが一番を傷つけていたんだね」


ごめん、と謝る先輩に、俺は慌てて首を振る。
すると先輩はクスっと笑った。


「とりあえず…知っておいて欲しいことは…」
「…は、はい…」
「私は一番にベタ惚れなんですよーってことです」


にひっと笑った先輩に、やっぱりこの人には敵わないな、と思った。…でも


「…俺も先輩しか見えません」


そう言い返すと、先輩は少しだけ驚いたように目を見開いて、それから照れくさそうに笑った。





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