(倉間長編番外/もし南沢がヒロインを好きだったら)










「名前、今日も可愛いな」
「あ、あはは…南沢先輩おはようございます」
「ああ、おはよう」



イラッ




「は、浜野くん…なんだか右下からただならぬ気を感じるんですが…」
「あー、あれじゃね?嫉…「あーあーあー!は、浜野くん!駄目ですよぉ!」


あー、マジイライラする。
イライラの理由はあの全身からエロオーラ出してる忌々しい南沢…さん。
本当なら敬称も付けたくないくらい、あの人にはイライラしてる。



俺は苗字が好きだ。
だけど、先輩の南沢さんも…苗字のことが好きらしい。

南沢さんは言わずもがな…モテる。男の俺から見てもかっこいいし、頭もいいし、サッカー部で10番はってるくらいだからスポーツだって出来る。だけど俺はそんな南沢さんとは正反対。頭も悪いしサッカーだって…南沢さんには負ける。身長だって低いし顔だって…はぁ、自分で言っておいてなんだが凹んできた。

とにかく、こんな人がライバルなんて…勝てる気がしない。…だけど、俺は苗字が好きだ。だからこそ、このやるせない気持ちをどうにかしたかった。



「なぁ、苗字。今度の日曜日にスパイク買いに行くんだけど、着いてきてくれないか?」
「へ?」
「(!?)」


聞き捨てならぬ会話を耳にして、俺は南沢さんと苗字のいる方を見た。
南沢さんの突然の誘いに顔を真っ赤にしている苗字に、どうしようもない焦りを感じてしまう。



「新作なんだけどさ、隣町にしかないみたいなんだ。もちろん、お礼はするぜ?ケーキ屋が出来たらしいから、そこのケーキセット奢ってやるよ」
「え、いや…あの…」
「いや、か?」
「っ、え…い、いやでは、ないんですけど…」
「じゃあ決まりだな。デート、楽しみにしてるぜ?」
「え…「ちょっと待って下さいよ」…く、倉間?」
「…なんだよ」


南沢さんが不機嫌そうに俺を睨んできたが、関係ない。
俺は無理矢理二人の間に割り込むと、南沢さんを睨み返した。


「こいつ、日曜日は俺の練習に付き合うことになってるんで」
「え…」
「……はぁ?」


苗字が驚いた様子で俺を見てくる。…驚くのも無理はないだろう。そんな約束はしていない。南沢さんと苗字のデートを阻止するために出た、苦し紛れのウソだ。


「ホントかよ、苗字」
「あ…」
「ホントですよ。昨日約束しましたし」
「……つーか、練習に付き合うよりデート行く方が苗字にとっては有意義だろ」
「…れ、練習が終わった後にたこ焼き食いに連れていく約束ですし」
「…お前馬鹿だな、女子はたこ焼きよりケーキが食いたいに決まってるだろ?…ならここは、俺とお前のどっちが良いか苗字に選んでもらおうぜ?」
「は?」
「俺だって苗字と一緒にいたいんだよ。俺にだって休日一緒に居る権利はあるだろ?」
「…」


苗字にとってはめちゃくちゃな話だが、俺たちにとっては一番の勝負どころだ。
俺たちは苗字を見ると、彼女は顔を真っ赤にして視線を彷徨わせていた。



「なぁ、苗字。俺と一緒にデート、行くよな?」
「……」
「え、…あ、あ…。……。…」


それから何度か言葉を濁した苗字だったが、一度だけこぶしをぎゅっと握ると南沢さんのほうを向いて、頭を下げた。


「先輩すみません、先に倉間と約束していたので…。せっかくのお誘い、断ってしまって本当にすみません!」


そう言うと、彼女はマネージャーたちのいるほうへ走って行ってしまった。








…え?






当然、俺と苗字は約束をしていなかった。
…ということは…。



「っ!!」




これって、期待しても…良いのか?






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