俺の彼女は恥ずかしがり屋だ。
だから、キスはおろか手も繋いだことがない。周りにはありえない、とか言われるけど…俺はそれで良いと思っている。

もちろん、彼女と手を繋ぎたいって思ってるけど、それ以上にあいつに…名前に無理をさせたくないんだ。
俺と名前の間に流れる空気はいつも暖かい色で、俺はその空気を乱すようなことはしたくなかった。



「倉間くん、ココア飲める?」

ちょこんと俺の隣に腰掛ける名前。彼女の手には先ほど自販で買ったホットココアが。
「飲めるけど」と返事をすれば、へにゃりと笑ってココア缶を差し出してくる名前。


「美味しいよ、飲んでいいよ」
「…え、飲んでいいのか?」
「うん」

そして彼女は恥ずかしがり屋な上に天然だ。
きっとココアを飲む=間接キスをするということが分かっていないんだ。

さて、俺はどうするべきだ?


1、彼女に間接キスだということを教えてあげる

2、気付かなかったフリをして飲む



1だと彼女が自分がしようとしていた事に気付いてショックを受けてしまうかもしれない。
2だと彼女が後で知ってしまったときの羞恥心が半端ないだろう。


あー…どっちもメリットが無いじゃないか。
いやな、俺的には2を選んだほうがメリットがあるんだよ。だって、間接キスだぜ?…なんか変態っぽくなっちまったのは、気にしないでくれ。
あー、どうするかな。


すると中々答えを出さない俺を、名前が不安そうに見上げてくる。



「倉間くん…?いらない、の?」
「あー…、あ」


あ、そうだ。



「ごめんな、俺さっきホットティー飲んでさ、腹がパンパンなんだよ」
「え、そうだったんだ。なんかごめんね?」
「いや、気にすんなよ。また今度俺もココア買ってみるからな」
「うん、美味しいからオススメだよ」


ほんわりと笑った名前は再びココアの缶に口をつけて、それを一気に飲み干した。
それから立ち上がる。「そろそろ家に帰ろっか」名前がコートを着ながらそう言ったので、俺もそれに倣った。

ココア缶をごみ箱に入れて、俺たちは教室を後にした。








12月も半ば。夕方の屋外は本当に寒くて、コートを着ていてその上マフラーもつけているのに、寒さを感じて身震いしてしまう。
隣にいる名前も少しだけ寒そうで、ピンク色の手袋をすり合わせていた。


「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。…あ、倉間くん」
「?どうかしたのか?」
「手袋、今日忘れちゃったの?」
「あー…ああ」


そういえば、今日は遅刻しそうになって机の上に手袋だけを見事に忘れてきてしまったのだ。
寒くてガチガチになっている俺の手を見て、名前が眉を寄せた。


「寒い、よね」
「…あー…まあ、大丈夫だろ」
「でもガチガチ…」
「でも後は帰るだけだしな」
「…」

すると彼女は何を思ったのか自分の手袋を外した。そしてその片方を俺に差し出す。…え?


「名前?」
「か、片方だけど…使って」
「でも、それだとお前が寒いだろ」
「…っ…、片方ずつ使って、片方ずつ手を繋いだら、良いなって、思ったの」
「…え」

俺が聞き返すと、名前は顔を真っ赤にしながら俯いていた。
つまりは、…手を繋ごうとしてくれていた…ってことか?

恥ずかしがり屋の彼女が、勇気を出してそう言ってくれたことが嬉しくて、ニヤニヤが止まらない。


「じゃあ、片方貸してもらってもいいか?」
「う、うんっ」
「…はい、手」
「…う、うんっ!」

手袋をはめた後、彼女の小さな手を握る。
ひんやりとしていたけど、少しだけ感じる優しい温もりに、先ほどまで寒さで震えていた筈の俺の体が一気に温かくなるのを感じた。







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