「倉間!」


隣を歩いていた名前の声が聞こえた直後に、何かを摩るような鋭い音が鳴っていることに気づき、俺は落としていた視線を上にあげた。…直後、自転車が俺にぶつかった。鈍い痛みが右手に広がる。
自転車に乗っていた高校生の男は驚いたのか目をおっぴろげている。…こっちのほうが驚いてるっつーのクソ野郎。

思いきり睨み付けると、焦ったように態勢を直し、立ち去ろうとする。そのまま消えやがれ。
…すると、俺の横から手が伸びてきた。その手は自転車高校生の腕をぐいっと掴んだ。


「謝らないのか?」
「…へ?」
「あんたの運転ミスでしょ。連れが前を見ていなかったのも悪いけど、前を見ていたあんたが何故突っ込んできたの?」
「あ…、その…」
「ここは道が狭い。そもそもそこに自転車は降りて押しながらと書いてあるだろう」
「す、すみませんでした…!」
「倉間、怪我は大丈夫か?」
「あ、ああ…何ともない、けど」
「なら、次からは気をつけてくれ」


そう言うと颯爽と歩き始めた名前に、俺と自転車高校生は呆気にとられた。
名前の俺を呼ぶ声が聞こえてきて、我に返ると、呆ける自転車高校生を一瞥して、彼女を追いかけた。




こいつと初めて会ったのは一年生の時だった。確かあれは、入学してから一週間が経った時だった。
あの時俺のクラスでは入学早々いじめが始まっていた。クラスのやんちゃ(馬鹿)な男子が、大人しいヤツを複数でいじめるという、無差別で陰険なものだった。
それに加えて、事態を悪化させた理由がもう一つある。いじめられているヤツと特に親しいわけでもない、一人になることを恐れて、誰もいじめられてるヤツを助けようなんて思わなかった。それが、いじめに拍車をかけた。


だが、それは5月に転校してきた苗字名前によって終わりを迎えることになる。


彼女はとても正義感が強く、いじめを行なっていた奴らを呼び出して叱りつけた。
だが、それで「はいわかりました」と言うはずがない男子たちは、彼女につかみかかった。だがそれはひじょうに軽はずみな行為だった。
名前は格闘技を習っていたのだった。男子は次々に薙ぎ倒され、震え上がった。…その次の日から、いじめはピタリとなくなった。名前は雷門中のヒーローのように崇められた。…まあ、男子を薙ぎ倒すってトコは大分脚色されてると思うけどな。(まあ似たようなことをしたのは間違いないだろう)

とにかく、こいつは男の俺から見てもかっこよかったが、俺は名前の可愛いとこも知っている。


クラスで気が合いまくった俺たちは付き合うことになって、今では互いの考えてることなんてすぐに分かる仲の良いカップルになっていた。
先ほど、男の俺からみてもかっこいい、と言ったが、もちろん名前には可愛いところだってある。彼女は爬虫類が苦手なのだ。

以前俺の部屋に来たときに、ゲージで飼っている蛇を見て抱きついてきた時はマジで可愛かった。



「きゃあっ!」

なーんて悲鳴あげてさ、俺にしがみついてくるんだよ。マジ可愛かった。
ぶっちゃけ名前のあんな反応見られるなんて思ってなくて、内心ドキドキしまくりだったけど、なんつーかラッキーだったよな。

普段は男勝りでしっかり者で知られている名前の女らしい可愛い一面を知ってるのは俺だけ…。そう思うとニヤニヤが止まらない。
あれ以来名前は俺の部屋には来ていない。最近は専ら名前の家ばかりだった。可愛い反応が見れないのは残念だ。もう一度だけでも良いから、見てみたい。だけど名前は俺の部屋に行きたがらないだろう。



…なので、俺は良い作戦を思いついた。




「倉間、今日は私の家に行くんじゃなかったのか?」
「あー…、まあ良いんだよ」
「だけど…こっちはグラウンドしかないぞ?」


名前を連れてやって来たのは河川敷。グラウンドの隅に放置してあったサッカーボールを拾い、リフティングをすると、名前が歓声をあげた。


「サッカーの練習風景を見せてくれるのか?楽しみだなぁ」
「…まあ、そんなトコだ」


チラリと名前を見ると、しっかりとこちらを向いていた。
そこで、俺はサイドワインダーを打つ構えをする。…まあ、もう分かっただろうが俺はコイツに必殺技のヘビを見せようとしているのだ。

さあて、可愛い反応…見せてくれよ?
ペロリと舌なめずりをして、俺はゴールに向かってサイドワインダーを打ち込んだ。





波風滑走曲
俺が技を放ったと同時に名前を見ると、彼女は顔を真っ赤にしながら悲鳴をあげていた




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