一之瀬くんの部活がない日は、二人で下校するということが決まっていた。
だけど、今日はいつもと少しだけ違う下校になりそう。何故なら、一之瀬くんにどこかに寄って帰らないか?と聞かれたからだ。つまり、放課後デートってこと。久しぶりに二人きりで何処かに行くから、とっても楽しみだなぁ。


「お待たせ」
「ううん、全然待ってないよ」


校門前で一之瀬くんと待ち合わせ。一之瀬くんは走ってここまでやってきてくれたみたいで、少しだけ息が切れていた。

それから、私たちはゆっくりと通学路とは逆方向、街中へと向かって歩く。他愛ない話をしながら、ゆっくりゆっくりと、二人だけの時間を大切にするように、幸せな時間を堪能した。


「どこに行く?」
「とりあえず、どこかカフェみたいなところに入らない?」
「いいね!…どこか良い感じのお店ないかな〜」
「んー…、あ、あそこは?」

一之瀬くんが指差した先にあったのは、綺麗なガーデニングが印象的な、こじんまりとしたカフェだった。雰囲気も良さそうだし、素敵。こんなところに、こんなお店があったのか…、知らなかった。


一之瀬くんの提案に頷いて、私たちはそのカフェに入った。
中は外見と同じようにこじんまりとしていたけど、オシャレで綺麗だった。コーヒーのにおいが辺りに漂う。

店員さんに案内された席は、太陽の光が当たる気持ちの良い席だった。私たち以外にいるお客さんたちは、皆大人の人ばかりで、少しだけ落ち着かない。だけど、向かい側に座った一之瀬くんは大人っぽいから、こういうお店が本当によく似合う。…かっこいいなぁ。

すると私の視線に気づいたのか、優しく笑いながら「どうしたの?」と聞いてくれた。私はなんだかちょっとだけ恥ずかしくなって、首を横にブンブン振った。ああ、顔が熱い。


店員さんに注文したケーキセットがきたので、早速手をつける。ホットコーヒーを頼んだ一之瀬くんも、ミルクを入れてスプーンでかき混ぜて飲み始める。学校であった話をしながら、ゆっくりした時間を過ごしていると、一之瀬くんがにこにこしながら私を見てきた。


「どうしたの、一之瀬くん」
「いや、名前の食べてるの…美味しそうだなぁって思って」


チョコレートクリームがたっぷりと乗ったケーキを指差しながら、笑顔で言う一之瀬くん。欲しいのかな?…でも、一之瀬くん甘いの苦手じゃなかったっけ?
そう聞くと、名前が食べてるのが欲しいんだよ、と言われた。よく意味がわからないんだけど、とにかく一之瀬くんはこのケーキが食べたいんだよね?


「どうぞ」

ケーキのお皿を差し出すと、一之瀬くんは首を振る。


「名前、あーんしてよ」
「ええっ!?」
「ね?良いでしょ?はい、あーん」


え、ええええ…!?一之瀬くんが目を瞑って口を開ける。こ、これは…素直にした方が良いのかな?で、でも恥ずかしいしな…。でも、一之瀬くんしないと残念がるよね?一之瀬くんの悲しそうな顔は見たくないし……、よし。

私はフォークを持ち、ケーキをさして一之瀬くんの口へと運んだ。パクリとそれを食べた一之瀬くんは顔を綻ばせる。



「美味しーっ、名前からのあーんで美味しさも100倍増しだね」


なーんて言うものだから、持っていたフォークをカランと落としてしまった。
恥ずかしいのと、一之瀬くんの笑顔が眩しいのとで、顔が真っ赤になる。それを見て、一之瀬くんはまた笑うのであった。





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