「拓人ーっ!」


ああ、なるほど。
朝からやけに神童がそわそわしていると思ったら、こういう事だったのか。

サッカー部のグラウンドの上からこちらに向かって手を振っているのは、昨年卒業したサッカー部のマネージャーだった名前さん、…神童の彼女だ。
名前さんの声が聞こえた瞬間、神童は嬉しそうに目を輝かせて、名前さんに手を振る。相変わらずラブラブだな。


名前さんはとことこと坂を下りてきて、円堂監督に挨拶をしていた。
すると、名前さんを知らない天馬たち一年生が不思議そうに首を傾げていたので、一応説明しておいた。


「ええーっ!?キャプテンの彼女さん?」
「高校生の彼女さんって…、なんだか大人の恋って感じね!」
「それにしても、綺麗な人だね…!」

天馬や信助、空野が目を輝かせながら名前さんを見る。
信助の言う通り、名前さんはとても綺麗な人だ。優しくて、頭も良くて…非の打ちどころが無い。当然、そんな名前さんを好きになる男はたくさんいた。同級生はもちろん、南沢さんたち後輩にもとても好かれていて…、そんな中彼女に選ばれた神童が少し羨ましかった時期もあったりしたが、今は2人が幸せそうなので俺はそれでよかった。



「君たちが新入部員さんたち?拓人から話をよく聞いてるのよ。…私は苗字名前、一応サッカー部のマネージャーだったの」

ふわりと微笑む名前さんに、天馬や信助はもちろん、同性の空野、それにあの剣城や狩屋までもが頬を染めていた。


「ふふっ、可愛いなぁ。拓人たちも一年前はこんな感じだったよね」
「名前さん、もういいからベンチに座っていてください!」
「?拓人、怒ってる?」
「怒ってません!ほら、早く行きますよ!」

神童が少しだけ不機嫌な表情で、名前を引きずっていってしまった。
神童は嫉妬深いからな…、名前さんの笑顔を他のやつが見るのも嫌なんだろうな。

神童は名前さんと少しだけ会話をしてから、こちらへと戻ってきた。それから、今日の練習メニューを発表する。心なしか頬が緩んでいるようだ。…まぁ、神童がキャプテンになった姿を名前さんが見るのは初めてだろうから、かっこいいところを見せることが出来るのが嬉しいんだろうな。




「みんながんばれー!!」


名前さんの可愛らしい声がグラウンドに響き渡る。なんというか、彼女の応援だけで士気が上がるというか。さすが名前さんパワーだ、なんて思っていたら、またもや神童が不貞腐れていた。全く、しょうがないな。

俺はこそっと名前さんのもとへ行き、こそりと耳打ちをする。


「どうしたの、霧野くん?」
「神童を名指しで応援してあげてください」
「え?」
「神童は自分だけ応援してもらいたいみたいですよ」
「ううーん、拓人は我がままだなぁ…」
「まあそう言わずに、ね?」
「霧野くんが言うのなら仕方ないね。…拓人ーっ頑張って!!」


すると、その言葉を聞いた神童の肩がビクリとあがる。
そこから、神童の動きはよくなった。化身を使ってシュートも決めた。…単純だな。




休憩時間に入り、マネージャーの手伝いをしていた名前さんがドリンクを俺たちに配ってくれる。
…神童はというと、倉間や浜野に先ほどのことでからかわれていた。


「神童、あんな綺麗な彼女がいて羨ましいぜ」
「ほんとだよな〜。ちゅーか俺、名前さん狙ってたからなぁ〜…」
「なんだと!?」
「わっ、目ぇ吊り上げて怖いって神童!過去の話だって、過去の!」
「それなら、良いんだが…」
「みんなーお疲れ様」
「あ、名前さん」
「はい、ドリンクですよ〜」
「ありがとうございます」


名前さんからドリンクを受け取っていく倉間たち。最後の一つを持って、名前さんは神童に近づく。

「はい、拓人。お疲れ様」
「名前さん…、ありがとうございます」
「ふふっ、拓人すごく頑張ってたね。化身も、シュートもかっこよかったよ」
「っ、名前さん!こんなところで、は、恥ずかしいです…!!」
「私は思ったことを言っただけなんだけどなぁ〜」
「で、でも…!!」


悪戯に笑う名前さん、恥ずかしがる神童。
とても微笑ましい光景だ。親友の俺にとって、彼と彼の彼女の幸せは自分の幸せのようなものだ。

…ただ、彼女がいないヤツばかりが揃ったサッカー部。…無自覚イチャイチャは目に毒だったりするヤツもいるから、できるだけ家でイチャついてほしいというのも、本音だったりする。



リア充少しは
(微笑ましいのには変わりないんだけどな、まあほどほどが一番だろう?…そういうわけだ)



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -