リチャードは女の人に優しい。
困っていたら、知り合いじゃなくても助けてあげるし、重そうな荷物を持っていたらどこまででも運んであげる。

リチャードは王様だから、民を守らないといけない。それに、全て彼の善意からくるものだと知っている。…知っているけど…。
リチャードの彼女としては、複雑だった。…ほら、今日も。


「大丈夫かい?」
「あ、はい…大丈夫です…!」

魔物に襲われていた女性を助けたら、一番に駆け寄っていったリチャード。
話しかけられた女性は、ほんのりと顔を赤らめながらリチャードを見ていた。…ほら、こうなっちゃうのが嫌だったんだ。

リチャードは端整な顔立ちにスラリとした長身、誰がどうみてもかっこいいと呼ばれる分類に入る男性だ。
しかも甘い声で優しくしてあげるというオプション付き…、惚れないほうがおかしい(まあ、惚れてもらったら困るんだけど)

私が嫉妬しているのが分かったシェリアが駆け寄ってきてくれて、もう少しの辛抱よ、と囁いてくれる。
そう、私たちは旅の途中。先を急がなければならない。…酷い話だけど、簡単に言うとこの人に構っている暇なんて無い。イコール、この女性とはここでさよならだ。…そう、いつもなら。

リチャードの手を借りて立ち上がった女性は、私たちにもお礼を言う。こちらも頭を下げて立ち去ろうとしたのだが…。


「あ、あの…待ってください…!」
「なんだい?」

女性がリチャードをじっと見つめて話しかける。…嫌な予感しかしなかった。


「なにか、お礼がしたいんですが…。え、えっと、あの…私の家はすぐそこなので、お茶でも飲みませんか?よろしければ、皆さんも」

私たちはついでか!とツッコミたかったが、まあ良い。も、もちろん断るよね、みんな…。と期待をこめた目でリーダー的存在であるアスベルを見ると、彼は首を縦に振っていた。…え。


「ではお言葉に甘えてお邪魔させてもらいます」
「な、なんで…?」
「さっきの戦闘で疲れただろ?それに、最近はゆっくり休めたこともなかったし…良い機会じゃないか」
「……そう、だけど」
「名前、様子が変だぞ?どうかしたのか?」
「……別に」








「リチャードさん、おかわりはいかがですか?」
「それではいただこうかな」
「では淹れてきますね!」


あの女性は先ほどからリチャードにベタベタベタベタ。私が彼女だって知らないのは、初対面だから当然かもしれないけど…けど、でも…。
リチャードは彼女からのご好意を受けているだけって、分かってるけど。それでも、私の心はざわついていた。

彼女に差し出されたお菓子にも紅茶にも手をつけずに、机の上に頬杖をついてムクれていた。そんなお行儀の悪い私に同情してくれているのか、いつも姑みたいに口の煩いヒューバートですら注意をしなかった。

するとリチャードのために紅茶を運んでいた彼女が「きゃあっ!」と声をあげて何かに躓いていた。それにいち早く気付いたリチャードが、彼女を抱きしめるようにして庇った。だが、トレーから落ちたカップは床に落ちて割れ、その破片が私の手へ飛び散った。…熱いし、痛い。だけど心も痛かった。リチャードが庇った彼女は当然、何もケガをしていなかった。

シェリアが私に紅茶の破片が飛んでいったところを見ていたのか、すぐに駆け寄ってきてくれたが、私はそれを無視して一気にドアへと走った。後ろから私を呼ぶ声がしたが、それを無視して、とにかく走った。









一人、木の下で蹲っていると、影が差した。…見上げると、そこにいたのはリチャードだった。
彼は心配そうな顔でこちらをみていて、それから私と同じようにその場にしゃがみこんだ。


「ケガをしたんだろう?…早く治療しないと…」
「…放っておいて」
「何でだい?」
「リチャードなんてきらい」
「…」


彼は一瞬だけ黙ると、立ち上がった。置いていかれるのかと思い、再び涙が出そうになる。きらいと言っておいて、本当に都合が良い頭してるよね、私…。ホント最悪。
目を瞑って、涙が出るのを必死にこらえていると、突然襲った浮遊感に驚き、変な声をあげてしまう。


「ひゃっ!リ、リチャード…っ!」
「キミがここから自分で動きそうに無かったからね」
「…」
「きらい、か。ちょっと傷つくな。……でも、僕も君の事を傷つけてしまったね。…本当にごめん」
「……」

リチャードの言葉に、ぎゅっと胸がつまる。
酷いのはどっちだ?勝手に妬いて、勝手に不貞腐れていたのは私なのに。


「っ、リチャード…っ」
「…名前」
「ごめんね、…嫉妬、してたの」
「…うん、知ってたよ」
「…っ、ごめんね。きらいじゃないよ、すきだよ、リチャード」
「…うん、知ってる。だって、僕もキミのことが好きだから」


抱き上げた私の頭を優しくポンポンと叩き、それからリチャードは私を優しく抱きしめてくれた。




…でも、ちょっとだけ寂しかったから、あなたの温もりで優しく包んで



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