「スパーダなんて最低最悪もう近づかないでっ!」
「ヘッ、誰が近づくかよ馬鹿。こっちから願い下げだぜ!」
…チッ、胸糞悪いったらありゃしねぇぜ!
ちょっと女ナンパしたくらいでギャーギャー言いやがって。…、……まあ、一応俺と名前は恋人、だからよ。最初は俺も悪かったと思って謝ったんだぜ?だけど、いくら謝ってもヘソ曲げてツンツンしてるからこっちもこっちで腹が立って、まあ後はご想像の通り。…どうよルカ。
「どうよって言われてもなぁ…。名前が怒るのも当然というか…、君が怒るのは筋違いというか…」
「あ゛ぁ?」
「な、なんで怒るのさ…」
「…チッ。…ンなことわかってんだよ、馬鹿」
そう、俺が全部悪いことくらい分かってんだよ。
だけど…、まあ俺だって人間だし?ツンツンされたら段々腹が立つというか?そもそも、当初期待していた反応と違ったからガッカリしたというか何というかだな。
…実はあのナンパ、名前を妬かせるためにやったんだよ。
最近なんかマンネリで、刺激が足んねぇって思ったんだ。だから、名前妬かせて泣いたところをペロリと頂こうとか思ってたりしてたんだけど、俺の彼女は俺が思っていた以上に強気だった。
「スパーダって、…恋愛に関しては最低だね」
「はあ?」
「…完璧に名前の心で遊んでるじゃん」
「…うるせぇよ」
彼女と言い争っていた時は湧き上がってこなかった罪悪感が、今湧き上がってきた。あーあ、どうすっかな。
普段あまり使わない頭を回転させながら、ベッドに倒れこんだときだった。トントンと控えめなノック音が響く。ルカがドアを開けると、そこにいたのは目を真っ赤に腫らした名前だった。
「スパーダに、話があるんだけど…」
「…なん、だよ」
「…ついて来て」
暗い表情のまま、彼女は部屋を後にする。今までに見たことがない彼女の表情に驚いていた俺は、ルカの「追いかけなくていいの?」と言う声で我に返る。
俺は愛用のキャスケットも被らずに、急いで彼女を追いかけた。
「もう、別れよう」
彼女にそう告げられた瞬間、俺は頭が真っ白になった。
「もう無理だよ。スパーダの考えてることがわかんない」
「ちょ、っと…待てよ」
「…さようなら」
短く告げられた言葉、俺はそれが受け入れられなくて、名前の手を掴んだ。そして、焦りながら彼女を放すまいとたくさんの言葉を並べる。
「すまないっ…!俺が、悪かった…!お前を妬かせようとして、それでナンパして…っ!お前の心で、遊んだようなもの、だよな…っ、俺…ホント最低だ、…っ、でも、別れたくない。別れたくないんだ…!お前が、名前がいないと…俺…っ!」
「…ぶっ、あははははっ!」
「……は?」
「あははっ、あは、っ…すごい、アンジュ、ホント面白い…っふふっ、あはははっ」
いきなり笑い出した名前に、飛び出した「アンジュ」の名前。ワケが分からずに呆けていると、目に涙を浮かべた名前が俺を笑いながら見てくる。
「どう?ショックだった?」
「…は?」
「ふふっ、アンジュがね、仕返ししてやりなさいって。別れようって言ったらきっと焦るから、私を苛めたことを後悔させてやりなさい!って」
でもまさか、ここまで焦るとはねぇ…。
ニヤニヤしながら言う名前に、ふつふつと怒りがこみ上げてきたが、同時にホッとしてしまう。…冗談かよ、くそ。
こいつに別れを告げられた時、胸にポッカリと穴が開いた気がした。そして、我を忘れるくらい必死になって彼女を引き止めた。…それだけ、俺の中で名前が大きな存在ってコトなんだな…。
「…馬鹿名前」
「馬鹿はどっちよ、スパーダ」
ベッと舌を出した名前の腕を引き、抱きしめる。
すると、彼女は俺の服の裾をぎゅっと握り、先ほど笑い声とは正反対の弱弱しい声で、ポツリと呟いた。
「…もう、こんなことしないでね?…私、スパーダのこと…大好きなんだから」
返事をする代わりに、俺は名前の額にそっと唇を落とした。