私の彼氏の神童拓人はとても泣き虫だ。
からかわれたら泣く、問題が解けなかったら泣く、蚊を叩いたら泣く、感動系の映画を観るとティッシュ1箱使う勢いで泣く。泣く泣く泣く泣く…とにかく、事あるごとに泣いている男なのだ。

ほら、今日も…


「そ、れで…俺が、パスを上手くできなかったせいで、うっ、っ…先輩や、同級生や、後輩にまで、迷惑をかけて、それで…」
「……」

いつもはクールに振舞っている神童拓人。だけど、本当の顔は泣き虫たっくん。
私や幼馴染の霧野、それに彼がひじょうに頼りにしている3年の三国さん…。拓人の本当の顔を知っているのは、ごく僅かだ。
そのため、拓人が愚痴を零せるのもごくごく僅かしかいなかった。

私は部活が終わった後、彼といつも一緒に帰るため、毎日毎日愚痴を聞かされ続けていた。


最初は、全然苦ではなかった。拓人に頼られてるんだ、と思ったら嬉しくて嬉しくてたまらなかったのだが…。最近はイライライライラしてたまんない。…ただ、愚痴を聞くだけなら構わない。構わないけど…


「名前も、こんな俺なんて…嫌、だよな。パスもろくに出来ない、駄目なヤツなんて…嫌い、だよな」


ほろほろと涙が拓人の頬を伝っていく。…ほら、始まった。ネガティブで有名な速水も真っ青な拓人のネガティブモード。

拓人は嫌なほうに嫌なほうに考える癖がある。まあ、簡単に言えば被害妄想が激しいのだ。
私がどれだけ否定しても、何だかんだ言ってうだうだうだうだ…。正直いい加減にしてほしい。


「…今日は、何も言ってくれないんだな。…そうか、俺もとうとう愛想をつかされた、のか…。っ、ううっ…」
「そんなこと言ってないって、いつも言ってるでしょう?」
「で、も…俺なんて…駄目なやつで、名前には、俺なんかより…うっ、もっと、お似合いな人、うっううっ…」
「自分で言って自分で泣くな!」
「ひっ、お…怒らないで…ううっ、」
「…あーもう拓人っ!」


本格的に泣き始めた拓人の肩を掴んで私の方を強制的に向かせる。
ビクリと肩を揺らした拓人は、女の子みたいに可愛らしい。涙で濡れた彼の長い睫毛が、震える。


「私は、拓人が好きなの!」
「うっ…うぅっ、」
「私には拓人以上の人なんて、いないの!」
「っ、名前…っ」
「これじゃあ駄目なの?」
「…駄目、じゃ…ない、けど…」
「けど?」
「俺、情けなくて」
「うん」
「泣き虫で、ヘタレで…どうしようもなく、ネガティブだけど…」
「うん」
「それでも、いいのか?」
「…いいけど。いいけど、私の気持ちを疑うようなことはしないで」
「名前…俺…」
「もし拓人を嫌いになったら、自分から言うから」
「っ、え…き、嫌…」
「まあ、そんなことは一生ないと思うけどね!」


そう言って、どさくさに紛れて拓人の胸に飛び込む。
女の子みたいに可愛らしい拓人も、やっぱり立派な男の子で。その逞しい胸に顔を埋めながら、必死で赤い顔を隠した。

すると、拓人が恐る恐るといった様子で私の肩を持つ。


「名前…」
「なあに、拓人」
「…俺……やっぱり名前が、好きです」
「…なに、それ」


拓人からの突然の告白に、少しだけ笑いながら彼の顔を見る。



「「名前/拓人…顔真っ赤」」


見事にハモって、そして私たちはお互い顔を見合わせて笑いあった。




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