「紅葉見に行かねぇ?」


浜野くんのこの一言で、俺の貴重な休日は潰れてしまった。
いや、まあ別に紅葉を見に行くこと自体は構わないんですけど…なんというか、その…。すごく気まずいといいますか…、俺ホントどうしたら良いか全くわからないんです助けてください。
…まあ、とりあえず今まであった出来事といいますか…説明しますね。なので、皆さん。一緒に解決策を見つけてくださいお願いします。



まず、事の発端は浜野くんの「紅葉見に行かねぇ?」という台詞だった。随分唐突でしたが、俺たちは首を縦に振りました。今はちょうど山が真っ赤に染まって美しい時期だったし、たまにはゆっくりのんびりした休みを過ごしたいと考え、俺たち全員が浜野の提案に賛成したんです。…ああ、この時点で考えが及んでいなかった俺を誰か殴ってください。

…それで、約束していた日になりました。紅葉を見に行きたいと言っていた張本人である浜野くんが寝坊で遅刻するというアクシデントもありましたが、俺たちは無事電車に乗り込んだ。…までは良かったんですけどねぇ。


4人掛けの席、名前が窓側の端に座った。当然その隣に彼女の彼氏である倉間くんが座ると思ったんですけど…。
なんと倉間くんより先に浜野くんが彼女の隣に座ってしまったんですよ。それに唖然とする倉間くん、呆然とする俺、外の景色を楽しんでいる浜野くんと名前…。浜野くんに悪気なんてこれっぽっちもないことなんて、俺は知ってますよ。でもだからこそ、どうしていいかわかりません。

少しだけ機嫌の悪くなった倉間くんにビクつきながら、俺は席に座って目を瞑った。景色を楽しむなんて…当然できませんでした。






紅葉した木々の下に立って、携帯のカメラで写真を撮り始める浜野くん。そして何だか妙にそわそわしている倉間くんと名前。
紅葉シーズンなので、俺たち以外にもたくさん人がいた。…そして、その殆どがカップルだった。ここまで言えば、分かりますよね…。

倉間くんと名前は付き合い始めてから結構時間が経ったのに、まだ初々しいカップルのまま。そんな2人はまだまだ一緒にいたい盛りといいますか、なんといいますか。
きっと2人きりになりたいんだろう。まあそれは当然だろう、周りは美しい紅葉、そして立ち並ぶ露店…まるで絵に描いたようなデートスポットなのだ。

…とりあえず、ここで重要なのが…俺がどうするか、だ。
浜野くんはこういう事には鈍感なので、倉間くんたちの気持ちには気付いていない。そしてあの2人は素直じゃないから言い出せない。…はあ、友達とはいえ何で俺が他人のことをこんなに考えないといけないんでしょうか。…はあ。


…ここは、2人きりにして…あげるべきですよね。ここで2人きりにしてあげないと、帰りの倉間くんの機嫌は絶対に悪いですし…。はあ、よし。



「あ、あー…は、浜野くん」
「ん?どうかした?」
「そ…そういえば、ここ…釣りもできるみたいですね!」
「釣り?へぇ、そうなんだ」
「川釣りもできるらしいので、紅葉見ながら釣りが出来るってことですね!」
「へぇ、それいいな!じゃあ倉間たちも誘って…「あー、倉間くん…たち、絶対断りますって!ほら、なんでここまで来て釣りしなきゃなんねぇーんだよ、お前らだけでやってろ!…って!」
「んー…それもそうだなー。速水はどうすんだ?」
「お、俺も最近釣りが好きになってきたかなー…ということで、浜野くんと一緒に行きます!」
「んじゃ決まりだな、おーい倉間」
「あ?どうした?」
「あのさ、俺たち川釣りしてこようと思うんだけど、別行動しない?」
「…!え、別行動?」
「やっぱ駄目?」
「え、い、いや…そんなことないけど…。…名前は?」
「わ…私も別にいいけど」




浜野くんの助け?もあり、無事に別行動をとることに成功した俺たちは川釣りを楽しんでいた。
餌をつけていると、見慣れた後姿が。


「…ははっ」


倉間くんと名前が、手を繋ぎながら赤黄色く染まった木々の間を歩いていた。
それを見たのと同時に、俺の心を妙な達成感が覆った。




苦労人H





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