部活で忙しい半田くんと一緒にいられる時間はとても少ない。クラスも違う私と彼が一緒にいられる時間は、学校からの帰り道…私の家の前まで、だった。
だけど、私はその限られた時間がとても好きだった。私と半田くん以外、誰もいない通学路。まるで世界に私と半田くんしかいなくなったみたいに、静かで幸せで少しだけ照れくさいその時間。

教室で半田くんが部活をしているのを眺めている時も、彼がそんな私に気づいて笑ってくれるのも、教室まで迎えにきてくれるのも、全部全部楽しくて嬉しいの。



「お待たせ!」

制服姿の半田くんが、私の教室まで迎えに来てくれた。私は机の横にかかっていた鞄を取ると急いで彼に駆け寄る。


「お疲れ様!」
「ああ、今日も疲れたよー…」
「ふふっ、今日半田くんシュート決めてたね!すごかったなあ…」
「あっ、見てた?ははっ、あれは自分でも驚いたなー」
「自分で驚いたの?」
「だって入るって思わなくてさー」


他愛のない話をしながら、私たちは夕陽に染まった通学路を歩く。
さり気なく半田くんは車道側に立ってくれていて、優しいな、と思った。

隣に並んで歩いているため、たまに擦れるお互いの制服。そのたびに息が詰まりそうになる。半田くんの隣にいるだけでドキドキしてしまって…。付き合い始めてから結構経つのに、いつまで経っても2人きりに慣れない。



曲がり角、ここを曲がって真っ直ぐずっと進めば私の家。何度も一緒に帰っている半田くんも、当然知っている。そして、この後の半田くんがとる行動を、私は知っている。
半田くんは曲がり角の前で立ち止まり、「あー…」「その、な…」と歯切れの悪い言葉を口にして、それから少しだけ赤く染まった顔をこちらに向ける。


「手、繋ごう」
「うん、いいよ」

それは、私たちの曲がり角の前でのお約束だった。
差し出された半田くんの右手に自分の左手を乗せる。恋人つなぎじゃない、お子様な繋ぎ方。だけど私と半田くんには、これが精一杯。

私が手を乗せたのを確認した半田くんは、右手にちょっとだけ力を入れて、それから歩き始めるんだ。
手を繋ぐ前より、自然とゆっくりになる歩みに少しだけ笑って、私も半田くんの手と重なっている手に力を入れた。



「半田くん」
「何?」
「半田くんの手、大きいね」
「…そ、う?」
「大きくて、ゴツゴツしてて…あったかい。…ずっと握っていて欲しいな」
「…俺も、苗字と…手、ずっと繋いでいたい」
「……」
「……」


自分で言って恥ずかしくなるのなんて、当たり前。私たちはお互いの言葉に、そして自分の言葉に赤面しながら、それでも繋がった手を離さずにゆっくりと直線の道を歩いていく。
すると見えてきた茶色い屋根。…夕飯のにおいが優しく漂う私の家の前に着いてしまった。



「…あ、…着いちゃったね」
「…なんか、今日は早かったな」
「…そうだね」

名残惜しそうに離れる手と手、私と半田くんの距離。
私は玄関の前に立つと、半田くんのほうを振り返り、小さく手を振った。



「送ってくれてありがとう、半田くん」
「あ、うん」
「また明日、ね?」
「ああ、また明日」
「じゃあね」
「…うん。…あ、苗字…!」
「?」
「今日、メールしても良いか?」
「…!う、うん大丈夫!9時ごろでいいかな?」
「あ、ああ!じゃあ9時にメールするから、じ、じゃあまたな!」
「うん、バイバイ」




(明日も明後日もその次の日も、ずっとずっと幸せな毎日が続きますように)



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