最近、苛々することが増えたような気がする。…まあ、理由なんて分かりきってるんだけど。



「名前〜、数学の宿題やった?」
「あはは浜野、私がやってるわけないって」
「それもそうだよなー。あ、じゃあ名前、速水に見せてもらおうぜ!」
「な、なんでそうなるんですかぁ…!」
「良いじゃん、減るもんじゃないし!」
「俺は何も得しないですよぉ!というか、名前も浜野くんも俺を使うのはいい加減止めてくださいよぉ〜!」


イライライライラ…。つーか目の前に彼氏がいるのに、その彼氏放って他の男と楽しそうに喋りやがって…。つーか数学は俺の得意科目ってコト、コイツも知ってるだろ。なんで俺に頼ってこないんだよ、馬鹿野郎。…というのもあるのだが、今俺が一番イラついている理由は他のことだった。

俺以外のサッカー部員は、みんな苗字のことを名前で呼ぶ。そう、俺以外の部員は全員。
もちろんそれは、俺と苗字が付き合う前からだ。…苗字は部員と仲が良いため、皆自然と名前で呼んでいた。だけど、俺はなんか照れくさかったから期を逃したというかなんというかだな。

だけど、最近思い始めたんだよ。それっておかしくねぇ?って。
俺たちは付き合ってるんだ。手だって繋いだし、デートだってしたし、だ、抱きしめたりもしたし…。そんな俺たちが、恋人同士の俺たちが名前で呼び合わないのって…おかしくねえ?…いや、まあ世の中には苗字呼びが良いって言う奴もいるかもしれないけど、お、俺は…苗字を名前で呼びたい。…んだよ悪いか!

だけど、なんか今更って感じだし…第一どう切り出していいのかも分からない。…はあ、お手上げ。
さり気なく呼んでみるか…?いや、でもなあ…。はあ。…名前、…っ、名前…。あー、なんか恥ずい。












「ねえ、倉間…なんだか最近イライラしてない?」
「…は?」
「勘違いだったらごめん。でも、何だか最近…わ、笑ってないなって思って…」
「あー…なんでもないって」
「そう?それなら良いんだけど…」


ほらみろ。俺がこんな調子だから、コイツに心配かけてるじゃないか。…はあ、告白の時や抱きしめる時もだったけど…勇気が出ない自分がマジ情けない。
ふと苗字を見る。…名前…か。…可愛い、名前…だよな。こいつに似合ってるっつーか…、響きも綺麗だし…なんというか、良い。あーもうクソッ!

すると、すっかり黙り込んでいた俺を苗字が覗き込んでいた。!!!?
俺が慌てて後ずさると、苗字が俺の額に手を当てる。いきなりのことで、俺は肩を震わせて固まった。


「顔真っ赤だよ…?もしかして体調悪いの?」
「は、え…い、いや…」
「熱かもしれないよ…?も、もう少しで試合なのに…、ご、ごめんね…マネージャーで、典人の彼女なのに…悪くなるまでずっと気付かなかったなんて…!」
「……え?」
「ん?」
「……」
「…ど、どうしたの?」
「い、ま…名前…典人、って…」
「っ!!!」

俺が指摘をすると、苗字は途端に耳まで真っ赤になって俺から距離をとった。
じっと彼女を見つめると、苗字は観念したようで、もじもじしながら話をしはじめる。


「あ、のね…。一人の時とか、心の中で…勝手に名前で、呼んでたの、その…倉間のこと。…ご、ごめんね…?」
「……」
「倉間、怒らないで…ね、ご、めん…」
「いや…駄目だ」
「…そう、だよね…ごめんね倉「苗字で、呼ぶな」…え…?」


ああ、なんか鏡が無くたって自分の顔が真っ赤になっていくのがわかった。…ああ、マジカッコ悪い。彼女の前では、もっとかっこつけたいのに上手くいかない。だけど、これはチャンスだ、と俺は思った。


「名前で、いい」
「ほんとう…?」
「…ああ。…あー…、その、な」
「ん?」
「名前…」
「…っ!」


ああ、俺たちはこんな道端で一体何をしているんだ。
…客観的にみたら、花飛ばしてる馬鹿ップルにしか見えないんだろうな。…まあ、それでも…俺たち自身が幸せなら…良いか。





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