「車田先輩!」


毎日のように俺の姿を見かけると駆け寄ってくるサッカー部の後輩、苗字名前。
15年間生きてきて異性にこれほどまでに親しく接されたことがなかった俺は、笑顔で駆け寄ってきてくれる名前を見るだけで毎日癒されていた。

ガシガシと頭を撫でてやれば、嬉しそうに目を細めて気持ち良さそうにする。…なんか、猫みたいだな。
すると名前は少しだけ痛かったのか、身をよじる。少し名残惜しいが、休憩時間も終わるしこれくらいにしておこうか。

名前の頭から手を離すと、名前はもう一度ニコリと微笑んでマネージャーたちのもとへ戻っていった。
すると同時に俺の心臓辺りにぎゅっと何かが篭った。…俺は、名前が好きなんだ。…だけど…。


嬉しそうに笑いながら、マネージャーたちと何かを話している名前をチラリと見やる。
俺なんかが、告白していいものなのだろうか。俺は昔から根っからのスポーツ小僧だった。色恋なんてしたことがない、だからクラスの奴らの話していることなんてワケわからなかったし、興味だってなかった。だから、俺の恋愛知識とやらはゼロに近い。


そもそも、告白なんてどのタイミングでするものなんだ?ドラマとかでよく見る、らぶれたーってやつを書くべきなのか?
…いや、それは止めたほうがいいだろう。俺の字は汚すぎる。ノートとかに書いてある字を書いた本人である自分でも読めないことが多々ある。

じゃあ…校舎裏に呼び出すのか…?…でもなんか臭いよな、それ…。



「つーか何で告白することになってんだよ…」
「え、車田先輩告白するんですか…?」
「!!??」

急いで振り返ると、思っていた通り…そこにいたのは名前だった。
彼女は興味津々といったかんじで、目を輝かせながら俺のほうを見ている。


「い、いつからここに…」
「今ですけど…、先輩にタオル渡し忘れていたなーって思い出して。はい」
「あ、ああ…サンキュ」


彼女から柔らかいタオルを受け取って、額から吹き出た汗を拭く。
すると名前がずいっと顔を近づけてくる。あまりに突然だったので、俺は少しだけ後ずさった。


「先輩、それで?」
「それで、って…?」
「告白のことですよ!」
「っ、こ、こくは…」


つーかそんなこと本人に言えるわけないだろ!とか、何でよりにもよって名前に聞かれたんだ!とか、何で俺あのとき口に出してたんだ!とか。
さまざまな思いが頭の中をぐるぐる渦巻いて、何だか混乱しそうだ。…いや、してるのか。


「車田先輩、好きな人いたんですね」
「……ああ。…まあな」
「…そ、そっか…そう、なんですね…」
「?」


言葉を濁す名前。いつもハッキリしている彼女が、珍しいな。と思うと、弱弱しい笑顔を浮かべた名前が目の前にいた。
その姿を見ただけで、何だか奇妙な気持ちが心の中を駆ける。なんだよ、この落ち着かない感じ。ズクン、みたいな、ズドン、みたいな。とにかく、何か重いものが心臓に圧し掛かった。


「そ、それで…いつ、こ、告白するんです?」
「え…」
「こ、告白ですよ告白…。車田先輩なら、ガツンと言っちゃったほうがらしいですよね」
「……」


ガツン、か。確かに彼女の言う通りかもしれないな。
ウジウジ悩むのなんて、俺らしくないしな。ドカンと一発!当たって砕けろ!だ!(まあ砕けちまったらそれはそれで嫌だけどな!)

俺は何故か元気のない彼女の腕を掴んで、名前の揺れる瞳をじっと見つめた。
目を泳がせる名前の名前を呼んで、俺のほうを向かせる。


「俺は名前が好きだ!」
「………へ?」
「だから、好きなんだ!」
「く、車田せんぱ…」
「じゃあ、言ったからな」


ああ、駄目だ駄目だ。予想以上だな、これは!
俺らしく出来ていたとは思うけど、告白した後が予想以上に恥ずかしくなる。情けないことに、俺は呆然とする名前を残してグラウンドを去った。休憩時間が終わる?んなの気にしてられっか!



「言い逃げなんてズルいよ、先輩…」


自分のことで精一杯だった俺は、顔を真っ赤にした名前のことなんて、知る由もなかった。




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