部活が休みの日曜日の午後、俺は名前の家に招待された。
昼を食べずに来て、と言われていたので、もしかすると彼女が手料理を作ってくれているのかもしれない、と少しだけ…いや、結構期待しながらチャイムを鳴らすと、パタパタと駆けてくる音が聞こえてきて、玄関のドアが開いた。可愛らしい笑顔で俺を迎えてくれた名前に、思わず頬が緩む。

「いらっしゃい、蘭丸」
「ああ、お邪魔します」

彼女が用意してくれた青色のスリッパをはいて家の中に入る。彼女のにおいが広がって、何だか名前を抱き締めている時のような感覚になった。
リビングに案内され、ダイニングテーブルに座る。ちょっと待っててね、と彼女はリビングに隣接されたキッチンに向かい、そこからオムライスを運んできた。ほくほくなオムライスの上にはデミグラスソースがかかっていて、美味しそうなにおいが辺りに広がる。…お腹が鳴りそうだ。

「サラダもあるから取ってくるね」

そう言って、冷蔵庫から綺麗に盛り付けられたサラダを取り出して並べた。

「飲み物、何がいい?」
「じゃあ水を貰ってもいいか?」
「うん、はいどうぞ」

ガラスのコップに水をそそいだ名前は俺が座ったのと反対側の椅子に座る。
向かい合って食卓を囲む俺と名前。…なんだか夫婦みたいで、少しだけ照れくさい。


「美味しいよ」
「そ、そっか…ありがと。蘭丸にそう言ってもらえて嬉しいな」

俺が褒めると、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。すると、彼女の向こう側にあるソファにピンク色のエプロンがかかっているのが見えた。


「エプロンしてたのか?」
「え、あ…ああ、うん。蘭丸が来た時には全部調理終わってたし…邪魔かな、って思って脱いだんだけど…」
「そのまましてれば良かったのに」
「…え?」
「名前のエプロン姿、見てみたかった」
「調理実習の時に見てるよね?」
「学校で見るのとこういう所で見るのとでは大違いなんだよ」
「そう…なの?」


だって夫婦みたいじゃん、…そう言うと、彼女の頬は一気にバラ色に染まる。ああ、可愛すぎる。
名前の照れた顔が見たくて、俺は更に続けた。


「まあ、名前と結婚したらいつでも見ることが出来るし、今日はお預け…かな?」
「け、けっこん…!は、話が飛びすぎだよ…っ」
「何?名前は俺と結婚は嫌なのか?」
「そ、そうじゃなくて…、蘭丸のお嫁さんに、なりたいけど…でも、こういう話は恥ずかしくて…!」
「ははっ、可愛い」
「か、からかわないでよっ!もうっ!………ゴホッ、ゴホッ」

照れ隠しに喉に一気に水を流し込んだ名前は、盛大にむせる。…おいおい何してるんだ。
俺は席を立ち上がり、彼女の小さな背中をさする。


「おいおい、大丈夫か?」
「ゴホッ、…ううっ、蘭丸のせいだばか」
「誰が馬鹿だって?」
「…ううっ、蘭丸…」
「何だ?」
「……蘭丸…」

背中をさすっていた手をぎゅっと掴む名前。俺の名前を意味も無く呼び、甘えるように見上げてくる名前にドキリと胸が跳ねた。


「あのね、私…すごく憧れてたんだ。こういう風に、好きな人に自分の作った料理を食べてもらうの…」
「……」
「だから…今私、とってもとっても幸せなんだ。蘭丸に美味しいって言って食べてもらえて…嬉しいよ」

はにかむ名前の頭を優しく撫でて、俺は彼女の耳元にそっと唇を寄せる。


「俺も嬉しい。こうして名前の笑顔が見れて」
「蘭丸…」
「俺が食べるだけで名前が幸せになれるんだったら、いくらでも食べるから。…いや、むしろ…俺から作ってくださいってお願いしたいくらいだ」
「……」
「俺も今、とってもとっても幸せだ」

そう言って彼女を抱きしめる。
甘い香りがふわりと漂い、午後の穏やかな時間が優しくゆっくり過ぎていく中、俺たちは幸せを噛み締めていた。






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