俺の彼女は南沢先輩の妹。名前はあの人とほぼ同じな顔の作りなため、とてつもない美人だ。
背も低くて、…お世辞にもかっこいいと思えない自分と、すれ違うと二度見されるような可愛い彼女…とてもじゃないが、釣り合っていないと思う。
3ヶ月前に校舎裏で告白された時は、夢かと思って何度も体を抓ったのも、今では良い思い出だ。
まあ、俺も名前のことが好きだったし…晴れて付き合うことになったのだが…そこからが問題だった。
ファンクラブもある彼女。…当然、その会員たちは俺と名前が付き合っていることを快く思っていなくて…。何度か嫌がらせをされたりもした。…マジ女々しい。まあ、ンなことはどうでもいいんだけどよ。…もし、名前と付き合っているのが…他の、例えば神童とかだったら…ファンクラブの奴らはどうしていたのだろう。…神童はかっこいいし、サッカーも上手いし…きっとお似合いなんだろうな…。
…こんな感じで、俺は日々自分自身へのコンプレックスを抱えながら生活をしている。…言い過ぎかもしれないけど、でも彼女とデートしたり学校で一緒にいるだけで…周りの目が気になって、…彼女に申し訳なくなって…自分が情けなくなっていく。
「俺のどこが良いんだ?」
四六時中そのことばかり考えてしまって、色々なことが疎かになる。…ほら、今だって彼女に呼ばれたのにボーッとしていた為気付かなかった。名前は頬を膨らましながら、俺のことを覗き込む。
「典人どうしたの、最近ボーッとしてる事が多いし…」
「何でもねぇよ」
「本当?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫」
俺の話題を流すような答えに、彼女は不満げに口を尖らせる。そんな姿さえも様になる彼女に、俺の心は更に曇った。
名前自身に不満があるわけではない。…ただ、本当に気になるんだ。何で彼女が俺を好きになったのか、何故俺なのかを知りたい。
やっぱり、このままウジウジ悩むのは性に合わない。…だったら、聞いてみたら良いんだよ。そうすれば彼女の答えがどうであれ、スッキリするだろ。
そう結論を出した俺は、隣に座っていた彼女の方へ体をずらした。南沢さんと同じ色の瞳が、不思議そうに揺れる。
「典人…?どうしたの?」
「…名前はさ、」
「うん?」
「何で、俺に告白したんだ」
「…え…え、え?な、何その質問」
俺の突然の問いかけに、驚きながら俺を見る彼女。…悪いが、俺は真剣だ。
それを感じとったのか…名前も真面目な表情になり、それからゆっくりと言葉をつむぎ始める。
「典人は…優しいの」
「俺が、優しい?」
普段あまり言われない単語に、首を傾げる。
俺自身自分が優しいなんて思ったことないし…。訝しげな顔をする俺をクスリと笑って、名前は続けた。
「普段は…意地悪だけど、色々気遣ってくれたり…ふとした優しさっていうのかな…、そういうところがあるのが好きかな」
「……」
「あとは、…サッカーをやってる時の真剣な表情が…すごくかっこいいよ。…私の大好きな顔してるの」
「っ、名前…」
「これが理由じゃ…駄目かな?」
可愛らしく首を傾け、微笑む彼女が可愛くて…そして彼女が言った言葉が嬉しくて…気がつけば、俺は彼女の事を思い切り抱きしめていた。彼女の甘い香りが鼻をくすぐる。
「ねぇ、典人。私、典人と一緒にいることができて…幸せなんだよ?…だから、」
「…ああ、分かってる」
「…そ、良かった」
彼女は俺の悩んでいたことを少しだけ察したみたいだ。
まあ、俺自身変な態度をとったりしてたし…感づかれてもおかしくはない。…名前には悪いことをしてしまった。
「ねえ、じゃあ聞いてもいい?」
「…何をだ?」
「典人は…何で私のことが、好きなの?」
少しだけ表情を曇らせながら聞く彼女を疑問に思いながら、俺は名前を抱きしめていた腕を放した。
「何でって…、」
「……」
「…笑顔、が…」
「笑顔?」
「…っ、笑った顔が可愛いからだ、…。お前の笑った顔を見ると、俺まで幸せになれるような、気がするというか…。と、とにかく…」
「…あははっ、そっか…そうなんだね」
彼女は少しだけ困ったように笑いながら、もう一度俺に抱きついてきた。
「あのね、典人が不安だったように…私も不安だったんだよ」
「……え?」
「私ね、…顔だけで判断されちゃうことが多いんだ」
…彼女は兄と同じように、度々告白を受ける。だけど、知らない男からが殆どらしい。…即ち、名前の顔だけ見て判断している…ということだ。
彼女も、俺とは正反対の悩みを抱えていたんだ。だけど、俺は名前を顔で選んだわけじゃない…、彼女自身を見ていた。…だけど、先ほど彼女に言った理由…笑顔が可愛いって…顔で判断…してるってことなのか…?そう考えると、一気に頭が冷めてくる。必死に弁解すると、彼女はお腹を抱えて笑い出す。
「ははっ…分かってるよ、大丈夫。それに、嬉しかったんだよ。笑った顔を見ると、幸せになれるって言ってくれたの」
「…っ、」
「照れてる典人も好きだよ」
「…からかうな、馬鹿っ」
「…お互い、考えすぎだったってことだね」
名前がそう言ったが、やはり相手の気持ちを全て酌むのは難しい。
だから、こうして言葉に出してこそ分かり合えるのだ。…これからは、どんどん言葉に出して…彼女に俺のこと教えて、彼女が俺に自分の気持ちを伝えれるような…そんな関係になりたいと思った。