※注意
このお話はイノセンス連載「眠れぬ夢を見る夢」の「もしも」のお話です。
設定は、エクステルミ兄妹が離れ離れにならず共に生きていたら…です。
なお、スパーダが少し可哀想なことになってしまいます、それでもよろしければどうぞ。






「コンニチハ ココ ハ ケルム 火山 デス」
「……」

俺たちの前に現れたのは、あの殺人鬼…ハスタと、同じような真っ赤なフリルのついた服を着た、ハスタと瓜二つな女だった。
奴と同じ生気の無い瞳…だけど、俺はその瞳から目が逸らせない。…何故、何で…。


「紹介しよう!我が最愛の妹…名前・エクステルミだっ!」
「……」
「んー、折角だから何か自己紹介しようかね、名前くん!ねっ?」
「……」


アイツの妹だという名前という女。奴は兄の言葉を無視して俺の方をじっと見ていた。
…なんだ、これ…。この瞳…どこか、で…。

そこで俺は思い出した、俺がデュランダルだった時の記憶…。この瞳は、この真っ赤で…それでいて真っ黒な闇の中にいるような感覚…。
グングニルに初めて出会った時の、彼女の瞳と…雰囲気と一緒だ。


「っ…お、まえ…グングニルか…?」
「…デュランダル」

彼女も俺を見て、デュランダルということが分かったみたいで…。少しだけ驚いた様子で俺のことを見つめる。
ああ、何度も夢で見てきた…グングニル、俺が…デュランダルが一生の愛を捧げた、グングニルの転生者、やっと見つけた…。

俺は嬉しさで、何も考えずに前へ前へと、彼女のほうへ無意識に足を進めていた。だが、それを止めたのはハスタの鋭い槍。



「ヘイボーイ、ウチの可愛い妹に近寄るな」
「っ!」
「…お兄ちゃん、少しだけ…話しをさせて」


彼女が槍ごとハスタを押しのけると、軽い足取りで俺の近くまでやってきた。
リカルドたちが警戒心を強めたが、俺はそんな彼女から目が離せない。


「デュランダル…今の名前は?」
「…スパーダ・ベルフォルマだ」
「スパーダ・ベルフォルマ…、…そう」
「グングニル…」
「…今は名前・エクステルミよ、スパーダ・ベルフォルマ」
「っ…」


グングニル…、いや、名前は俺の顔をじっと見つめた後、悲しそうに瞳を揺らした。
そして、俺の頬をゆっくりとした動作で撫でる。


「会いたかった…」
「…っ」

名前がコロコロと笑う。
そこで俺は思い出した、グングニルとの約束…。来世で、「生き物」として出会えたら…すべてを重ねよう。手も、唇も、身体も…。愛し合う証拠を、形で残したい…。

俺たちは出会えた。デュランダルたちの願い通り、出会えたんだ。
…俺は、無意識に彼女に手を伸ばす。だけど、それは叶わなかった。


「でも…現世では私たちは他人、関係なんてないの」
「っ!!」
「…前世なんて、関係ない。私は私だもの」
「名前、お兄ちゃん暇だー、さっさとコロシちゃっていいー?」
「…ふふっ」


彼女は笑いながら俺の前から遠ざかる。
今日まで全く知らなかった女、だけど…関係を否定されて、ポッカリと心に穴が開く。大切にしていたものが、壊されるような、無くなってしまう様な…感覚。

グングニルと共に過ごした記憶が蘇る。ああ、ああああ、俺は、俺は…っ!

頭を抱え地面に座り込んだ俺を心配して、ルカたちが駆け寄ってくるのが見えた。だけど、俺は、駄目だ…彼女に否定されて、頭が狂いそうだ。俺は、我は…こんなにもグングニルのことが…っ!


「名前、早くコロシちゃおうよ、ねえ、あれ、デュランダなんとかさんなんでしょ?なーるほど、俺の兄弟でもあるデュランダなんとかさんもバルカンの地も惹かれやってきたわけだ。だけど俺たちは前世で敵同士、だから殺しあう宿命なのですよっ」
「…それも楽しそうだけど…、ここに来た意味を思い出してね。バルカンに会いに来たんでしょうお兄ちゃん、こんな場所で殺しあったらお父さんが悲しんじゃう」
「それならばむしろ、バルカンに血を捧げようではないか!」
「…じゃあお兄ちゃん、帰ったら何でもしてあげるよ」
「!?斬ってもいい?」
「うん」
「血を舐めてもいい?」
「うん」
「いろんなことしていい?いいの?」
「もちろん、だから帰ろう」
「名前好き。ならいいよ、なんか情けないデュランダなんとかさん見てたら萎えてきたし。色んなものが」
「…じゃあ帰ろうか」


ハスタと手を繋ぎ、ケルム火山から去ろうとする名前。俺は頭がいっぱいで、彼女の姿を見ることは出来なかった。

だから、情けない俺の姿を名前が寂しそうな目で見ていたことには、当然気がつけなかった。




結末と終焉とフィナーレ
違う形で出会えていたら、何か変わったのだろうか





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