「え、嘘だろ?」
「……っ」
「3ヶ月も付き合ってるのに、キスはおろか抱きしめてもない?本当かよ…」
「……」



あいつと付き合って3ヶ月。季節は夏から秋へと移り変わった。
だけどそんな季節とは裏腹に、俺たちはまったくと言っていいほど進展はない。

今だって、情けない話だけど手を繋ぐだけで精一杯。あの告白以降、好きだとも伝えていないし。
デートとかはするけど、…それ以上なんて恥ずかしくて、出来ない。


っ、だけど…。
俺はマネージャーの仕事をしているアイツの姿をチラリと横目で見る。
そういうことをしたくない、ワケじゃないんだ。つーかむしろ、…好きだから…触れたいし、キスだってしたいし、…でも切り出し方も分かんねぇし、大体俺はそんな(女を優しく抱きしめれるような)キャラじゃないし…。


南沢さんが引退した今、こういう事を相談できるのは霧野しかいない。
だから俺はありのままを奴に打ち明けた。すると一度は驚いたものの、すぐに親身になって考えてくれた。


「そうだな…、やっぱり恥ずかしいとか全部捨てて、抱きしめてみろよ」
「なっ…!だからそれは無理だって…」
「じゃあどうするんだ」
「そ、れは…」
「(まったく、初心なやつだな…ホント)…お前たち、付き合ってるんだろう?何も問題ないと思うぞ」
「でも、…苗字が嫌がったら…」
「それはない」

キッパリと言い切った霧野は、座っていたベンチから立ち上がり、肩にかけていたタオルを置き「まあ…」と繋げる。


「お前次第だな」
「…、」
「じゃあ俺は練習行くぞ」
「あ、ああ…サンキュ…」


霧野を見送ってから、自分も練習を再開した。
…だけど、霧野の言葉や彼女のことを考えてしまって、全然集中できない。

嗚呼、いつから自分はこんなに弱くなってしまったんだろう。…だっせえな、俺。











帰り道、苗字と俺だけの空間。
いつもならば、恥ずかしいけど幸せな時間なのに…今日は違う。

そのことばかり考えてしまって、会話なんてとても出来ない。俺の様子がおかしいことに気付いた苗字も、俺のことを心配してくれる。ああ、ホント何してんだよ…。
考えを振り払うかのように頭を左右に振り、それから苗字を見ると、少しだけ悲しそうな顔をしている。


「倉間、本当に大丈夫…?」
「大丈夫も何も、何にもねえよ」
「…でも、様子がおかしいよ」
「何でもねえよ」
「…でもさっきか「何でもねぇって!」…!く、らま…?」


驚いたような表情の苗字に、俺は後悔する。…ああ、これじゃあただの八つ当たりじゃねぇか…、クソッ。
俺は立ち止まり唇を噛む。くそっ、イライラする。何も行動を起こせない自分に腹が立って、どうしようもなくなった時だった。

甘い香りが鼻を掠め、それから全身に感じる妙な圧迫感。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。…そして、ゆっくりと覚醒していく頭…。


…苗字が、俺に抱きついて…いた。


理解して、俺は全身が熱くなっていくのを感じた。苗字の顔を見ると、顔を赤くしながら、だけどその目は悲しそうに揺れていた。


「苗字…っ」
「倉間、何かあったんでしょ…?練習の時から様子がおかしかったから、どうしたのかなって、思ってて…」
「…っ」
「あのね、…私じゃ頼りないかもしれないけど…、話を聞く…くらいなら出来るし、…その、倉間の…力になりたい、よ」
「苗字…」


段々声が小さくなっていく苗字がどうしようもなく可愛くて、俺はいつの間にか彼女のことを抱きしめていた。
俺に直接伝わってくる鼓動に、とても安心する。苗字が可愛くて、仕方ない。そして俺は改めて実感する。…やっぱり、こいつが好きだ…と。



…だけど。




結局、抱きしめるということは出来た…けど、きっかけは彼女からだったし、誤解されたままだし、…あーあ、だっせえな俺。






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