午前練習が終わる一時間前、マネージャーの仕事を茜ちゃんに任せて葵ちゃんと水鳥と私の三人はお昼を作りに宿舎へと戻った。
今日は日差しが強いので、探検には帽子を被っていかないとなーなんて思いながら、届いていた食材を見る。


「ミートソースのスパゲッティみたいですね」
「うわー美味しいよね!あ、あとサラダ用の野菜があるよ」
「じゃあ分担しようぜ。あたしサラダ作るわ」
「ちょ、簡単なやつ取ったな!…えー、ミートソースとか作れないんですけど」
「じゃあ名前先輩はパスタを茹でてくれませんか?私、ミートソース作りますよ」
「ホント?葵ちゃんは料理上手だもんねー!じゃあそういうことで、行動開始!」


順調に昼飯作りも進んで、パスタの上に葵ちゃん特製ソースをかけている時に部員たちが食堂にやってきた。
水鳥がトレーを配っているのを横目で見ると、倉間の姿が見えた。…ああ、もう相変わらずかっこいい…。すると、私と一緒に盛り付けていた葵ちゃんがコソっと耳打ちしてくる。


「先輩、順調ですか?」
「え、いや…今日挨拶しただけだけど…、あ…そう言えば今日自由時間に一緒に遊ぶよ。浜野と鶴ちゃんも一緒だけど」
「そうなんですか!じゃあドキドキイベントがあるかもしれませんよ!」
「ド、ドキドキイベント?」
「二人きりじゃないって所が惜しいですけど…、グッと距離が縮まるといいですね!」






「(距離が縮まる、か…)」


スパゲッティをフォークに巻きながらもの思いにふける。
倉間のことを好きになったのは、一年の秋だった。一年の時も同じクラス、しかも同じ部活だったのにまともな会話をした事がなかった。あの頃は、少しだけ倉間のことが怖かったのだ。威圧的な態度に生意気な言動…小学校の頃に苛めに遭っていた私は、面倒事はとにかく避けたかったので、最初の頃は倉間に関わらないように随分注意しながら過ごしたものだ。


全てが変わったのは、文化祭の前日だった。
放課後に出し物をクラスの皆で作っているんだけど、サッカー部は遅くまで部活を行うため、いつもは参加しなかったんだ。
だけど、文化祭前日は部活が中止になったので手伝うことになったんだよ。クラスのみんなと遅くまで残っていたんだけど…







「(なんで買出しに行かなきゃいけないのよー!いや、ジャンケンで負けたからだけど!しかも倉間くんと二人で?ありえない!)」


まったく…今思えば、あの時の自分が羨ましい限りだ。
当時は嫌で嫌で仕方なかったんだけどね!…とにかく、ジャンケンで負けた私と倉間くんはクラスのみんなの夜食を買いにコンビニへ向かっていた。

話したこともなかったので、当然ここでも会話はゼロ。とっても気まずいどうしよう。
結局コンビニまでお互い無言。適当に何かを買うことになってコンビニ着いたら即解散。…はあ、憂鬱だな。

てきとうにカゴにお菓子を入れていくと、倉間くんがジュースを持ってきてカゴに入れた。そして何も言わずに私からカゴを奪ってレジへと持っていった。
あれ…?重いから持ってくれたのかな…?いや、私がモタモタしてたからイラついて持ってくれただけかもしれないし…ううーん。


会計を済ませ、秋の夜空の下を歩く。10月後半、セーターを着ているけど寒くて。少しだけ肌を擦りながら学校までの道を歩く。


「…寒いのか?」


突然、倉間くんに声をかけられた。
え、え…話しかけられた?何で今更、え、何で…?いや、そんなことより何か返事しないと!えーっと、えっと…


「ま、まあ」
「……」


すると何を思ったか、倉間くんは自分が着ていたコートを脱ぎはじめる。…え、え?
そしてそれを私に渡す。一応受け取ったが、一体倉間くんは何を考えているんだろう…?


「着ろよ、寒いんだろ?」
「え…?」
「……」
「えっと、本当にいいの?」
「ああ」
「本当に、本当?」
「ははっ、お前疑いすぎ。ほら、さっさと帰るぞ」


倉間くんの目が、細くなる。今まで見たことがなかったその笑みに、私は見惚れてしまった。…倉間くんって、あんな風に笑うんだ…。
それに、今貸してもらったコート…。あたたかくて、私を包み込んでくれる、そんな気がした。


その日から倉間くん…、倉間とよく話をするようになった。気付けば目で追っていた。彼のことが、知りたいと思った。







私は、恋に落ちていった。





20110808



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