夕飯を食べ終わった後、すぐに私はマネージャーの皆に女子部屋へと連行された。
ジャージを脱がされ持ってきていた普段着を着せられ、髪をアップにされ、そしてすずらんの香りの塗るタイプの香水を首筋と手の脈の上に塗られた。


「これ、雑貨屋さんで買ったんですけど、本当に良い匂いなんですよ!倉間先輩もイチコロです!」
「お、ホントだ!めちゃくちゃ良い匂いだな!」
「名前ちゃんとても可愛いよ、今日は頑張れ」
「うん…、…あのね、みんな。…ありがとう」

この三人には特にお世話になった。感謝の意をこめて頭を下げると、水鳥が私を思い切り抱きしめた。


「礼なんていいよ!………頑張れよ」
「……うん」
「よっし!じゃあ最後に背中叩いて気合入れてやるよ!」
「遠慮します」
「なんだよ、ノリが悪いな!」
「っ、あはは」
「ふふっ」

少しの間だけ、四人で笑いあう。…それから、私たちは玄関前に向かうために部屋から出た。香るすずらんに癒されながら、私はゆっくりと一階へと続く階段を降りた。









花火は、自由時間にマネージャーの皆がバスに乗って隣町まで買いに行ってくれていたそうだ。再び彼女たちにお礼を言って、私は彼の姿を探す。
倉間は浜野たちと一緒にいた。いつもの黒いタンクトップに、私服の短パン。や、やっぱり…かっこいい。


「名前ちゃん、小さい花火が無くなる頃に、打ち上げ花火もやろうと思うんだ。そのときに南沢さんたちにも名前ちゃんたちが二人きりになれるように、協力してもらうように頼んでるから」
「み、南沢さんたちにも協力してもらうの?」
「誰かが名前ちゃんたちを邪魔しないように見張っててもらうんだよ。…じゃあそれまで花火を楽しもっか。はい、これ」
「あ、ありがとう…」

茜ちゃんから渡されたのは、持つタイプの花火3個。
そうだ、皆がせっかく買ってきてくれたんだから、楽しまないと。

私はロウソクの火に花火の先っぽを近づけた。すると、数秒後に緑と黄色が混ざった、色鮮やかな火がパチパチと音を立てながらついた。
合宿所の入り口付近に座り、火が消えるまで楽しむ。


いろんなことがあった、この合宿。
みんなが私のために手伝ってくれた。…あとは、私が踏み出すだけだ。



ちょうどその時、円堂監督がグラウンドに降りて打ち上げ花火の準備を始める。部員の何人かは玄関前からグラウンドのほうへ移動していく。


「(よし)」

…私は火の消えた花火をバケツに入れて、近くにいた葵ちゃんに話しかけた。


「今から、ここで…告白する」
「!!…わかりました。じゃあ、皆がグラウンドから離れないようにどうにかします!倉間先輩は…」
「私が、呼び出す」
「…わかりました!先輩、頑張ってくださいね!」
「うん」


グラウンドへ下りていく葵ちゃんの背中を見ながら、私は合宿所の入り口に座り、携帯を取り出す。電波は…立ってる。同じ携帯会社だから、倉間の携帯もきっと電波は立ってるだろう。
私は、ゆっくりとメールを打っていく。絵文字も顔文字もない、シンプルなメールを。



『話したいことがあるから、玄関前で待ってる』







20110825






「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -