「お前がっ、…好き、なんだよっ…!」



倉間のその言葉に、私の思考は完全にストップする。
その隙に倉間が洗面所から逃げるように去っていくのが視界の端に映った。

段々と停止していた思考回路が動き出すと同時に、私の頬が熱くなっていく…。
先ほど倉間に言われたことを、何度も何度も思い返す。


「好き」

確かに彼はそう言った。…好き、って…つまりは、そういう…ことだよね…?
倉間が、私のことが…好き?


っ!で、でも…い、いつ?いつから?な、何で…?どうして…?
嬉しいけど、頭がついていかない。え、え、え、え…じ、じゃあ私たちって…両思いだった、ってこと、だよね…?



両思い



その言葉が、頭の中を埋め尽くす。
倉間と、両思い…。…それは、私がずっと願っていたこと、だけど…何の前触れもなく叶ったその思いに、私は実感が湧かなかった。

へなへなと自分の膝を抱え込むようにして座った。
…と、とりあえず少しだけ頭を整理する時間をください…












洗面所から出た俺は、食堂の隅に座っていた。
浜野や速水、それにマネージャーやそのほか諸々が、唯一事情を知る俺に話を聞きたがっているようで視線を向けてくるが、俺はそれらをすべて無視して、名前が倉間にブン投げた俺の参考書を拾った。


「(…ったく、これ高かったんだぞ…)」

カバーが外れていたのを直し、それからテーブルの上に散乱したあいつらの勉強道具を整頓する。
倉間が名前の問題集に書いた、嫉妬の塊を見る。

…ガキすぎる。
最初に倉間の超汚い字で殴り書きしてあるソレを見たとき、俺は正直倉間を殴ってやりたくなった。


「(自分から、俺に相談しておいて)」


倉間が一年の頃から、やつの恋の相談とやらに乗っていた俺。
その頃から、名前の倉間への想いにも気付き始めていた。両思いなアイツら。どちらも、俺にとって大切な後輩。

だから俺は、それとなく協力していた。倉間の相談に乗ってやったり、名前がドリンクを倉間に渡しやすいように休憩時間はわざと、名前の近くでダベったり。


倉間は嫉妬深い。

名前が男と…特に、浜野(これは単に、アイツと一番仲が良い男だからだ)と話をしているのを見たら、すぐにイライラし始める。
そのわりに、名前を目の前にすると意地張って話さなかったり、いつまで経っても苗字呼びだったりする。…まあ照れくさいんだろうけど。

だけど名前のことは、アイツなりに大切にしていた。…俺も、そこは認めていた。


マネージャーとしての働き、絶やすことの無い笑顔、誰にでも平等で、他人思いなところ…倉間が、名前に惹かれた理由だ。
だけど、問題集に書いてあった『男目当てでマネージャーやり始めたんじゃねぇの?』という言葉。いくら嫉妬して頭に血が上ってたとしても、言ってはいけない言葉だ。

実際、名門の雷門サッカー部…男目当てで入部する女子もいる。だけど、そんな奴は大概三日と持たずに辞めてしまう。
だけど、名前は一年の時から、ずっと頑張っていた。…そしてフィフスセクターの件の時も辞めなかった。

いつもひた向きに頑張る彼女に、「男目当て」だなんて。俺たちは冗談でもそんな事、言ってはならない。第一思ってもいない。
だから、俺は倉間が許せなかった。好きな奴の前でくらい、素直になれ。…先ほど、洗面所で倉間に言った言葉だ。…だけど、これは…どういう状況だ?


俺は今、顔を真っ赤にした名前に手を引かれ、そして玄関まで来ていた。
先ほど食堂に来た彼女に、黙って引っ張られていったのだ。…さっきと立場が逆転してんじゃん。

彼女は立ち止まると、赤い顔で俺にこう言い放った。



「南沢さん…、く、倉間に…告白された…!」



おいおい、急展開すぎるだろ。




20110820




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