数字が並んでいる問題集。
ぶっちゃけて言うと、見るだけでおぞましいソレを、私は南沢さんから借りた参考書を見ながら必死こいて解いていた。

時々こちらをチラリと見る南沢さんがクスクス笑うのは、私の必死で解いた問題が間違えているからだろう。悪かったな馬鹿で!


とりあえず全問解き終え、倉間に手渡すと、彼は後ろの解答を見ながら赤ペンで間違いを直していく。
そして、再び私の元へ戻ってきた。ページは一面赤赤赤。倉間の呆れたようなため息が響く。すると、浜野は私の解答を覗き込んできた。


「うわー、すごい間違えてる!」
「浜野も人のこと言えませんよ…」

そう言って鶴ちゃんが差し出したのは、私と同じ数学の問題集。そして、彼の解答もまた、一面赤だった。
やばいな、私たちマブダチ以上に一心同体なのかもしれない。

そう言ったら南沢さんに、「いや、単に馬鹿なだけだろ」と言われた。う、うるせーやい!


「ちゅーか…もう何かさ、疲れた」
「ま、まだ始めたばかりじゃないですか…」
「俺ってあんまり授業ちゃんと受けてないからさ、勉強に集中するって耐性がついていないというかさぁ…」
「まあ…分からないでもない」
「だよな!やっぱ名前なら分かってくれると思った!」

ニコニコと笑いながら浜野は私の頭を撫でた。それに笑顔で応えると、倉間にハタかれる。


「おい、解説するから見ろ」
「う、うん…」
「まずココ、使う公式からして違う。それから…」


倉間の持っているペンがしゅるしゅると動く。問題集に色々書き込んでくれるのは、とてもありがたいのだが…。
彼は右利き、私も右利き。席の配置は南沢・私・倉間。
倉間は右で書かないといけないから、どうしても私のほうに体を寄せないといけない。イコール…


「(…!ち、近いよっ…!)」
 

どきどきどきどきどきどき、心臓が高鳴る。説明の最中なんて、隣なんて見せられなくて…ずっと前を向いていた。うるさいうるさいうるさいよ!倉間に…き、聞こえたらどうしてくれるつもり「オイ、聞いてんのかよ」!!!
いつの間にか倉間の顔が近くにあって、私の胸はドキリと跳ねた。…あれ、デジャヴ…。


「く、倉間…」
「…そんなに、浜野が気になるのかよ」
「…え?」
「……」


ムッとした表情のまま、彼は問題集の端に何かを書いた。


『そんなに好きなら浜野に教えてもらえば』
「…え…?」
「…」
『つーか何で俺がお前に教えてやらなきゃなんねーんだよ、最初から浜野が良いなら南沢さんにそう言えばよかっただろ』


…?Why?何故いきなりこんな話題になったんだ?
というか浜野に教えてもらうって…無理だろ。って、いやいやそうじゃなくてだな…!


『お前さ、男好きだよな。バスの中もあの一年とイチャイチャイチャイチャ…マジ止めてくれよ。見てるだけで鳥肌モンっつーか。速水や南沢さんにも色目使って。もしかしてお前男目当てでマネージャーやり始めたんじゃねぇの?』


…一瞬、意味が分からなかった。何がどうなったら…そうなるの?…え、え…?
倉間が書く言葉を見て、私はフリーズしていた。そんな私を見て、倉間はため息をつき、そして喋り始めた。


「……」
「何だよ、図星かよ」
「……」
「はあ。…マジ迷惑」


「迷惑」

それを聞いた瞬間、私は立ち上がった。皆が驚いてこちらを見てくるが、構わない。
泣きそうになりながら、私は言葉を搾り出す。


「な、んでそうなるのよ…」
「は?」
「倉間の馬鹿!大っ嫌い!」



私は持っていた南沢さんの参考書を倉間に投げつけ、私は食堂から出て行った。
何も考えずに、ただひたすら走った。





20110817



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