勉強会に行くために、お泊りバッグから勉強道具を取り出す。あ、数学問題集の角折れてら。
私は、問題集の角を指で撫でて直しながら、何度目か分からないため息をつく。


「(あーあ、どうしよう…)」


イチャイチャしてんじゃねーよ、か。…これって絶対、誤解されたよね…。
だ、だとしたら誤解を解かなくちゃ…!で、でもどうやって…?しかも、倉間は私のことなんてどうも思っていないだろうから、説明されたところで「はあ?なんで俺にそんなこと言わなくちゃいけねえんだよ」みたいな展開になるだろうし、そこで私が漫画の中のヒロインみたいに、「あなたには、誤解されたくなかったの」なーんて言う事だって出来るわけないし…

でも、誤解されたままは嫌だな…。ああー、もう!どうしたらいいのさ…。





勉強会会場(食堂)に向かうと、神童くんと霧野くんがいた。
霧野くんは食堂に入ってきた私を見て、ハハッと乾いた笑みをこぼす。


「大変だな、お前も」
「…誤解されちゃったかな」
「というか…、あー…まあ、何というかさ。誤解というか、妬いてるというか…」
「?」
「おい霧野、それ以上は止めとけ」
「あ、南沢さん」

ちょうどそこに、参考書らしき物を抱えた南沢さんが入ってきた。
先輩はテーブルの上に参考書を置くと、話をしていた私たちのほうへ歩いてくる。


「せんぱーい…どうしましょうか」
「まあアレはなー…、放っとけばいいというか。無理に説明加えないほうが良いと思うぞ」
「ですよね…この女何思い上がってんだよ、みたいな空気になりますもんね…」
「(そういうわけじゃないけど…)あー、まあとにかくいつも通りに接してみろよ」
「はい…」


そんな会話をしていたら、皆が続々と食堂に集まり始めた。
浜野も三国先輩に連れられてきた(私のほうを見て口パクで「サボるのバレちゃったー、名前も?」と聞かれた。このお気楽ヤローめ)

いつも通りの席につくと、鶴ちゃんが「あ、あのー…」と口を開いた。



「浜野は俺が教えるんでしたよね…?じ、じゃあ俺と名前が席を交代したほうが良いんじゃないですか?」
「えっ!?」
「それもそうだよなー、じゃあ速水こっちこいよ!」
「そ、そうですね!名前、交代しましょう!」


鶴ちゃんはそう言うと勉強道具を持って、そそくさとこちらに来た。私は、勉強道具を向こう側に押しやり立ち上がる。
つ、鶴ちゃん…!嬉しいけど、嬉しいんだけど…!…とりあえず移動して、南沢さんと倉間の間の席に座る。ぐっはあ緊張ド緊張!


学校での話になるんだけど、当然だけど今まで何度も席替えがあった。うちのクラスはあみだクジで席を決めるんだけど、その度に机の下で手と手を合わせて「倉間と隣になれますように」って祈ってたっけ。

結局いつも隣どころか前後左右斜め後ろ斜め前…どれにもなれなくて。
でも、対角線上にいたり同じ列だったりすると…なんだかそこで繋がりをもてたような気がして嬉しかったなあ。
え?単純すぎる?いいかい、恋する乙女は単純かつ複雑に出来てるの!矛盾してる?…気にするな!


と、とにかく…うっはあ近い!ちょっと肘動かしたら当たりそうなくらいの距離に、い、いる…!しかも勉強会って、1時間くらいでしょ…?し、心臓持つかな…。



「…じゃあ勉強会やるか。一年や二年、もし分からないところがあったら持ってこい」
「俺もいいド?」
「……ああ。で、そこの勉強嫌いコンビは昨日言ったように個人で教えてもらえよ。じゃあ開始」


珍しく皆を仕切った南沢さんの言葉で、勉強を開始する。…え、えーっと…。
隣にいる倉間をチラ見する。…あ、あれー?倉間くん、自分の勉強を始めちゃってるよ…。え、教えてくれるってのはどうなったの?
 
しばらく私がオロオロしていると、倉間が横目で私を見ながら呟く。



「とりあえず問題解いて、それから答え合わせして違うトコ解説してやるから」
「あ、う、うん…」
「……」
「…(気まずい)」



なんとも微妙な空気が漂う私と倉間。
目の前に座る浜野と鶴ちゃんはとても楽しそうに見えて…(正確に言えば浜野がニコニコ笑ってて、鶴ちゃんが困っているいつもの画だけど)

少し息苦しい中、私は数学の問題集を開いた。






20110817





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