今日の夕飯はカレーライスだった。
浜野たちと一緒に食堂に入ると、茜ちゃんたちがカレーを机に並べて置いていた。…美味しそう!

私は倉間から借りたジャージを汚さないようにするために、少しだけ裾を捲くる。そして、天城先輩から受け取った赤色の福神漬をカレーの隅に置き、それをまた浜野に渡していると、倉間と南沢さんが食堂に入ってきた。南沢さんは、またニヤニヤと笑っている。もうこの人のこと、ニヤニヤ星人って呼んでやろうかな。


練習でお腹が空いていたのか、皆は物凄いスピードでカレーを平らげていく。
私も、外で遊んだり…いつもより確実に動いたので、お腹が空いていたらしく…気付けば皿の中のカレーは半分以下になっていた。



「そういえば名前は夏休みの宿題やったー?」
「あはは、まさか」
「だよなー」
「えっ、一つも手をつけてないんですか…?」
「私、始業式の3日前にまとめてやるタイプだから」
「俺もー。あ、じゃあさ、一緒にやらね?その方が手っ取り早いっしょ、色々と」
「ああ、色々と手っ取り早いかもね」
「一人がワークを一度に二人分やって、もう一人が違う教科のワークを一度に二人分やる。そうすると、同じ事を書けばいいだけだし、一教科は自分で考えて解かなくてもよくなる。…って作戦ですか」

鶴ちゃんがじと目で見てきたので、あはは、と笑い返す。さすが鶴ちゃん、よく分かっていらっしゃる。
すると、倉間が呆れたように聞いてきた。


「じゃあポスター描くやつとか、自由研究はどうすんだよ」
「あれはー…、親?」
「おいおい」
「つーかお前ら、ここに宿題は持ってきてないのかよ」
「一応…持ってきたけど、ねえ?」
「せっかくこうして皆集まって、お泊りしてるんだから…楽しまないと、ねえ?」
「…せっかくこうして先輩も集まってるんだから、教えてもらうって選択肢はないのかよ」


勉強大好きニヤニヤ星人が呆れたように言う。…なんだかさっきから呆れられてばかりな気がするな。
というか、勉強会?ここまで来て勉強会?ありえねえ!…と思っていたら、隣の机に座っていた天馬くんがこちらに身を乗り出してきた。…あれ、嫌な予感が。


「先輩に教えてもらえるんですか?」
「…まあ、分かる範囲でなら」
「えっ、じゃあ今度勉強会しませんか?俺、ワークで分からないところがあって…」
「後ろに載ってる答え写せばよくね?」
「そんなの駄目ですよ!」
「……」


浜野と二人で目配せしあう。…実は浜野と仲良くなった理由は、お互い勉強が苦手だったからだ。
一年前の夏。補習のため学校に夏休みまで通うはめになった私。5教科中4教科も補習になってしまった。

正直自分がここまで馬鹿だと思っていなかった私は、かなりのショックを受けた。そして、同時に思った。「こんなに補習受けてる奴、他にいないんじゃないの…?」と。


だけど、私の他に一人だけいた。…それが浜野だった。
あれ?っと思ったのは、補習三日目の数学の時間。そういえば、あのサッカー部の人…いつもいるよね?えーっと、確か名前は…は、浜野?

毎回入れ替わる補習メンバー。入れ替わらない私と浜野。どうやら向こうも同じことを思っていたみたいで、その日の帰りに話しかけてくれた。


「サッカー部のマネージャーの子だよね?」
「うん、君は…浜野くん、だよね」
「そうそう!ちゅーか、自分もずっと補習いるよね?」
「うん!浜野くんもだよね?」
「あー、授業中ほとんど寝てたからなー…テストさっぱりでさ」


ニコっと人懐っこい笑みであっけらかんと話す彼に好感を持った私。
もちろん、浜野が良い人に見えたのも理由の1つだし、そして何より…自分と同じほぼ全部補習仲間として何か近いものを感じ取ったのだろう。

その日から、私たちはとても仲良くなった。彼の友達の速水に勉強を教えてもらったり、一緒に帰ったり…。
あったかい気持ちになって、何気ないその優しさに胸がどんどん熱くなって心が軽くなって、私たちは信じ合えるソウルメイトとなり、GOOD、いや、グッとキター!

ごほん、とにかくだ。私たちはマブダチになったんだぜ。



「それって…類友じゃん」
「まあ、そうとも言う」
「とにかく、勉強?は?って感じ」
「名前、お前…数学苦手だったよな?」
「…え、何で知ってるんですか南沢さん」
「そういや倉間、数学得意だったよな?」
「…なんで知ってんスか南沢さん」
「じゃあちょうどいいじゃないか。明日の自由時間、勉強会しようぜ。一年、分からないところがあったら見てやるよ。他のやつらも来たかったら来れば良いさ。三年も受験なんだから、合宿中も少しはやっておいた方がいいだろ」
「ホントですか?ありがとうございます!」
「確かに、勉強もしておいたほうが良いですね」
「んで、そこの勉強嫌いの二人組は特別授業な。浜野は速水、名前は倉間に付きっ切りで勉強を教えてもらう。同じ学年のほうが気も楽だろ」


WHAT!?
ちょ、ちょ、ちょっと待って!…は、はあ?
ニヤニヤ星人、それはあからさますぎるよ!な、何でいきなりそんなこと言うの!?

私が混乱していると、マネージャーたちもニヤニヤ星人の意見に賛成しはじめる。…お、お前ら…!
すると、珍しく落ち着かない様子で倉間が立ち上がる。


「ちょ、南沢さん!」
「何だよ」
「っ、な、な、何で俺がっ!」
「…さっき言っただろ?くーらまくん?」
「っ…、だからって…」

南沢さんに言いくるめられて?倉間は再び自分の席に座った。…どうしたんだろう?
…いやいやいや、とにかく。もしかしたら、これはチャンスかもしれない。…く、倉間に…教えてもらえる?と、特別授業…

ボボボボボっと顔が赤くなる。えーい、この際ニヤニヤ星人のハメ方については言及しまい!これはチャンスだ!チャンスなんだ…!
倉間は納得してない様子だけど、きっとニヤニヤ星人が何とかしてくれるだろう!だから私は…


「…わかりました、やってやろうじゃん!」
「マジでー?」
「だとよ、倉間」
「…チッ」



こうして明日、勉強会が開かれることが決まった。




20110811




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