マネージャー四人で、部員三人分を配ることになった。私はいつもの3トリオ担当だ。
ちょうど三人で固まっていたので、一番近くにいた浜野からドリンクとタオルを渡していく。

二人に渡して、それから倉間の前まで行き…私はドリンクボトルとタオルを差し出す。
それを黙って受け取った倉間。気まずい沈黙が流れる。…近くにいた浜野は鶴ちゃんに引きずられてどこかへ行ってしまった(あ、ありがとう鶴ちゃん!)


「あ、あのさ」
「…何だよ」
「さっきは、ありがとう。倉間がいなかったら、怪我してた」
「…別に」
「それでも…、ありがとう」
「…。あの、さ」
「ん?」
「…、向こうから3番目のジャージ」


倉間の指さす方向を見ると、木の枝にかかった3枚のジャージ。それの、右から3番目のことを言っているのだろうか。
私が倉間の次の言葉を待っていると、少しだけ顔を赤くした倉間が「あれ俺のだから、着とけ」と言った。

わけが分からず首を傾げていると、倉間はあーとかうーとか呟きながらジャージを自ら取りに行って私に投げつけた。


「え、倉間…?」
「着とけ」
「…?」
「っ、白…透けてんだよ、馬鹿」
「!!」


倉間の言葉に驚いて下を見ると、確かに…下着のラインがくっきりと浮かび上がっていた。
うちの学校の指定の体操服(白)はかなり生地が薄い。だけどいつもは上にジャージを着るため、今までそんなこと意識したこともなかった。

は、恥ずかしい…!今までこれで歩いていたのか…、な、なんで今までみんな教えてくれなかったの…!
すぐに倉間のジャージに袖を通す。すると、思いのほかぶかぶかだった。チビ、だと思ってたけど…やっぱり男の子なんだな…。


「あ、あ…倉間、ありがと」
「…元はと言えば、俺がお前のジャージ濡らしたせいだろ」
「あ、えっと…」
「…返すのは夜でいい」

それだけ言うと、倉間は浜野たちのほうへ向かって行った。
私も、何が何だかわからなくて、ふらふらとマネージャーのみんながいるほうへ歩いて行った。


「きゃー先輩!何ですか、その美味しいシチュエーションは!」
「な、なんで透けてるの教えてくれなかったの…」
「水鳥さんが、倉間先輩にドキドキしてもらうために教えないでおこうって」
「み、水鳥!」
「でもそれが、もっと美味しい展開を生んだんだ。感謝くらいしろよ」
「ううっ、…ありがとう」
「名前ちゃん、よく撮れてるよ」


茜ちゃんがカメラを見せてくる。…写っていたのは、会話をしている私と倉間の姿。そして、倉間のジャージに身を包んでいる私…。ふと、自分の着ているジャージに目を移す。…く、倉間の…ジャージ…

意識しただけで、すぐに顔が熱くなってきた。何だか、今日は良いことがありすぎて…逆に怖い。でも…。
私は、緩んだ顔が隠せないくらい…幸せな気分になった。







練習が終わったので、私は部員のみんなにタオルを配る。
葵ちゃんたちは、夕食を作りに先に戻っていた。

すると、天馬くんと信助くんが私のほうへ走ってきて頭を下げる。


「名前先輩、お疲れ様です!」
「お疲れ、はいタオル」
「ありがとうございます!ところで、なんで先輩は倉間先輩のジャージ着てるんですか?」
「へ…?え、あ、あ、こここ、これは…」
「おい一年、さっさと風呂掃除してこい。今日はお前らの担当だろ」
「あ、南沢先輩お疲れ様です!はい、わかりました!行こう、信助!」
「うん天馬!失礼します、先輩!」


宿舎まで走って行く一年生を見届けて、南沢さんに向き直る。
すると、やはり南沢さんはニヤニヤと笑っていた。…くっ、助けてもらった手前何も言えない…!


「だ い す き な く ら ま のジャージ」
「っ!」
「顔、真っ赤」
「か…からかわないでください!」
「ははっ、可愛い」
「っ、だからっ!」
「南沢さん」


突然の第三者の声。南沢さんと一緒に振り返ると、倉間がいた。
少しだけ怒っているようで、ああ、まさかさっきの聞かれたかな、南沢コノヤロウなんて思っていたら、倉間が南沢さんの手を強く掴む。


「話があるんスけど」
「…ああ、わかった。じゃあな、名前」
「え、あ、はい…」

そしてそのまま引きずられるようにどこかへ行ってしまった。
一体何だったんだろう…、そう思っていたらちょんちょんと肩を叩かれる。振り返ると、浜野と速水がいた。


「食堂行かね?」
「あ、うん…」
「つーかソレ、倉間のジャージだよね。どうしたの?」
「いや、…さ、寒いから貸してもらったの」
「寒い?めちゃくちゃ暑いと思うん「は、浜野ぉ!」?なに、速水」

気まずそうに私のほうをチラチラと見る鶴ちゃん。何だかいつもごめんね、気を使わせちゃって。


「ちゅーか、寒いのってヤバくね?水に浸かったから風邪ひいたのかも」
「そ、そうですね!名前、今日は無理せず休んでくださいね?」
「あ…あ、うん。ありがと」


浜野と鶴ちゃんと3人で合宿所まで歩く。
ぎゅっとジャージを握ると、倉間のにおいがした。それが、何だかくすぐったくて…。

やっぱり私は、頬が緩むのを隠せなかった。




20110810



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