夜、窓から領主邸に忍び込んでくる影に…私は少しだけ笑って、身を起こそうとしたけど、叶わなかった。
ゆっくりと顔だけ動かすと、私のことを心配そうに見下ろすソフィさんの姿が。


「ソフィ、さ…」
「名前、無理しないで」
「ありが…とう」


初めて会ったときと変わらない姿のソフィさん。
あれから何十年も過ぎて、私はもうすっかり年老いてしまった。病気のせいで、今ではもう一人で立ち上がることさえも出来なくなっていた。


だけど…私は幸せだった。
素敵な土地で暮らすことが出来て、結婚して…愛する人との子供が出来て、その子供がまた子供を生んで…。

そして、ソフィさんとも出会えた。
彼女と何年も過ごせて、色んなことが知れて…本当に良かったと思う。

結局、私はソフィさんと一緒にいるだけだった。何にも出来なかったように思う。…だけど、



私を見下ろすソフィさんは、笑顔だった…、だけど…泣いていた。
それから、私は目を閉じる。




「名前、」
「……」
「ありがとう。名前と出会えて、良かった。人とお話して、やっと思い出せたの」
「……」
「あなたが一緒にいてくれたおかげで、わたしは…ずっと辛くなかったよ」
「……」
「もう一度、人と話しをしようって…隠れずに、みんなを見守っていこうって思えたよ」
「…」
「……ありがとう」




















「ソフィお姉ちゃんって、図書館にある本の妖精さんみたいだね!とっても可愛くて、さらさらな髪…私もソフィお姉ちゃんみたいになりたーい!」
「じゃあ、わたしが髪を結ってあげるよ」
「本当?ソフィお姉ちゃん大好きー!」
「ずるいー、僕とも遊んでよ!」
「うん、順番だよ」


ラントの広場で、今日も少年少女たちに囲まれている紫色の髪の女性が一人。
その姿はまるで妖精のようで、美しい。

彼女には日課がある。子供たちと遊ぶこと、そしてお墓を綺麗に掃除しに行くことだ。
以前墓守りをしていた一家の一人娘が嫁いだため、後継人がおらず、嫁いだ娘が一人で行っていたが、一昨年に亡くなってしまった。その知り合いである女性が、引き継いだのだ。

彼女は夜になったら、箒と水の入ったバケツを持って、お墓への階段をのぼる。
そして、見晴らしの良い場所に立てられた、ラントの領主家のお墓の前で立ち止まる。

そしてそこに、クロソフィのお花を供えて、刻まれてある名前を愛おしそうに撫でた。





20110910




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