ソフィさんがラントで生活するために出来ることはないか、考えて考えて…。
だけど…所詮、子供には何も出来なくて。だから、私は子供なりに出来ることを考えた。…それは、彼女と一緒にいることだ。


朝はお墓の掃除をして、それからラントの裏山に向かう。
花畑でソフィさんと一緒に過ごして、色んなことをお話して…、夕方には家に戻って…それから夜になって誰も出歩かない街をソフィさんと一緒に歩いて、それからアスベルさんのお墓参りをする。

毎日、ソフィさんと一緒にいることが当たり前になって…。
ソフィさんも私に気を許してくれた。…ソフィさんは、アスベルさんやパスカルが生きていた頃のお話をたくさんしてくれた。世界中に行ったことがあるソフィさんのお話を聞くのが楽しかった。


「名前、わたしね…アスベルと約束したの。…アスベルの子供や、その子供たちと一緒に未来を見届るって」
「…うん」
「最初は…アスベルの息子や孫たちは、わたしを受け入れてくれたけど…、時間が経っていくごとに、気味悪がられたの。…最初は平気だった。だけど、一人の時間が長いほど…寂しくなって…。こんなんじゃ、アスベルに合わせる顔がないよ…ね」
「……ソフィ、さん…」
「…でも、最近は寂しくないんだよ。…名前とこうしてお話するの、とても楽しい」


私には、何も出来ない。
ラントの人たちに、ソフィさんのことを受け入れるように言う勇気もない。全然駄目なヤツだ。

だから、知ってしまったことの罪滅ぼしのように毎日毎日彼女に会いに行く。
そんなズルい私をソフィさんは受け入れてくれている。…ああ、なんて私は情けないんだ。…だけど、彼女に謝ることもできず…私はズルいまま、毎日を過ごしていった。











それから何年かして、私はルイスと結婚をして、名前・ラントになった。
あの時から一日も欠かさずソフィさんに会いに行っている。私がソフィさんのところに通っていることをルイスは知っていたけど、少しだけ苦い顔をするだけで、咎めることはなかった。


「名前は、ラントの家の人になったんだね」
「うん、そうだね…」
「ふふっ…何だか懐かしいな」
「懐かしい…?」
「昔ね…アスベルに娘にしてもらったの。お前は、ソフィ・ラントだ、って。そうすれば、ずっと一緒にいられるから…って」

ソフィさんのお話に絶対に登場する「アスベル」…ルイスのご先祖様。この人はソフィさんにとって、本当にかけがえのない人なんだな、と思う。


「だから、わたしと名前は家族なんだね」
「え…?」
「わたしはソフィ・ラント。名前は名前・ラント。…ほら」
「…ふふっ、本当だね」


私は毎日ここに来ている。
ソフィさんのために何かしたいと思うけど、この花畑でこうして話しをすることしか出来ない私。そんな自分が情けなくて、毎日毎日罪滅ぼしのようにこの場所へ行く。
だけどそんな情けない私に、本当に優しく接してくれるソフィさん。

彼女の儚い笑顔を見ていると、自分の無力さに泣きそうになってしまう。
私も、アスベルさんのように…彼女のために何かをしてあげたい。



私は、そこで思い出す。ストラタ博物館でみた、パスカルの書いたプロトス1の本のことを。
…そうだ、私は…私に出来ることは…

ソフィさんと別れて、領主邸へ目指す。
自分の部屋に入り、それから紙と羽ペンを取り出した。







私は一冊の絵本を書いた。
お花畑に住む、紫色の髪の美しい妖精のお話だ。

妖精は人より生きている時間が長くて、一人で毎日が寂しくて…。
だけど「アスベル」という男の子が現れて、共に過ごすんだ。…彼女に「笑顔」を与えて、妖精は笑いながら楽しく生きていく…そんなお話。

私は書き終えたそれをソフィさんに見せた。すると彼女は嬉しそうにしながら、それを読んでいた。


「アスベルと、わたしの…お話」
「うん、勝手に書いちゃってごめんなさい」
「ううん、謝らなくていいよ。それに、嬉しい…」
「ソフィさん…」

パタンと絵本を閉じたソフィさんは、私のお腹をそっと撫でる。


「赤ちゃん、元気?」
「うん、この前バロニアのお医者様に見てもらったんだけど…問題ないみたいだよ」
「男の子かな、女の子かな?」
「うーん、どうだろうね。どちらにしても、元気に生まれてきてくれたらいいな」
「生まれてきたら…抱っこしてもいい?」
「もちろん」

ソフィさんは私のお腹に耳を寄せて、目を閉じる。


「命の音がする…、名前の子供…アスベルの子孫…」
「…ソフィさんの、家族」
「…そうだね、わたしの…家族」


嬉しそうに耳を寄せるソフィさんを見て、私は考える。
私に出来ることは、ソフィさんのことを知ってもらうことだ。…もちろん、世界中のみんなに…というわけではない。ラントの人たちに知ってもらいたかった。
今では私たちの年代がラントを動かしている。ソフィさんを忌み嫌っていたお母さんたちの世代ではなく、ソフィさんのことを知らない私たちの世代が中心になっていた。

だからこそ、私は今のラントの人たちに…ソフィさんのことを知ってもらいたいと思ったのだ。
だから、本を書いた。ソフィさんを妖精に例えて…彼女を題材にした本をラントの図書館に置いてもらうつもりだ。


未来がどうなるかなんて、私には分からないけど…。彼女のことを知る人が増えてくれたら嬉しいと思った。
どなるるか分からないなんて…無責任と言う人がいるかもしれない…、けど。

本にすることによって、何かを感じてくれる人がいたら…。
私が死んだ後の世界でも…彼女のことを「本当に」知ってくれる人がいれば、いいな…と思った。



20110910




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