ソフィと名乗った彼女、不思議な雰囲気の女性。
彼女の隣に座りながら私は、海を見つめる。色とりどりの花が風に揺れて、甘い香りを運んでくる。


「ソフィ、さんは…いつもここにいるの?」
「…お昼はいつもここにいるの。…思い出の場所だから」
「思い出の…」

ソフィさんの言葉に、私はチラリと名前の彫ってあった木を見る。
あそこに彫られていた名前は、「アスベル」「ラムダ」の二つ。あと、もう二つあったけど…擦れて読めなくなっていた。


「ともだちが出来た、場所なの」
「友達?」
「アスベルや、ヒューバート…みんなわたしの友達だった…」
「…(だった)」


どういう、意味だろう。
ルイスの話しによると、「アスベル」は何年も前の人間のはずだ。それに、(おそらく)ソフィさんと一緒に写真に写っていたパスカルも…もういない。
そしてルイスのあの言葉…「何年も何年も、生き続けて…」…この言葉は一体どういう意味だ?

もし、写真の中の人がソフィさん本人だったとすると…この人はやっぱり、何十年も生きているの?



「ソ、ソフィさんは…パスカルの、友達?」
「!パスカル、知ってるの?」
「……授業で、習いました」
「…そっか、パスカルは頭良いから…。…うん、パスカルは…ともだちだよ」
「そう、なんですか…」


やっぱりこの人は、写真の中のツインテールの少女だ。
…でも、何故?…なんでこの人は、…生きているのだろう?生きていたとしても、もう老人のはずだ。

でもソフィさんは、若くて美しい。まだ…20代くらいに見える。
…そんな私の視線に気付いたのか、ソフィさんは悲しそうに目を揺らした。



「やっぱり、気持ち…悪いよね」
「!そんな…」
「わたし、…わたし…、こうして人と話したのは久しぶりなの」
「え…」


そこで私は思い出す。
お母さんの言葉を、ルイスの言葉を。どれもソフィさんを非難するものだった。



「ラントにずっといる…ラントでずっと生きているから、わたしは気味悪がられている」
「…」
「アスベルが死んでから、わたしはずっと一人ぼっちだった」
「ソフィ、さん…」
「シェリアもヒューバートも、リチャードもパスカルも教官も…みんないなくなった…。最初は、平気だった。だけど、どんどん居場所がなくなるの、わたしのことを知らない人が増えていくのが、怖いの、怖い…っ」


ガタガタと震えるソフィさん。
私はゾッとした。…今まで、一人で…何十年も生きてきた、ってこと?ラントの人たちに気味悪がられながら、ずっと…一人で?

でも、何故私はこの間まで彼女のことを知らなかったんだろうか。
お母さんは私に「忘れなさい」と言った。…友達たちの間でも、ルイスを除いて彼女の話題が出たことは無い。
…もしかして、ラントはソフィさんという人を本当に追い出そうとしているのかな…。


そんなの…、おかしい。
震えるソフィさん。ずっと寂しい思いをしていたのだろう。


私はソフィさんに近づき、そっとその手を取った。



「名前…」
「…」



何もいう事は出来なかった。自分などの言葉で、彼女の心の傷が癒えるなんて思わないから。
だから、私は彼女の手をひたすら…握り続けた。




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