私はラントの裏の山にやってきた。お母さんに山菜を採ってきて欲しいと頼まれたからだ。
大きなカゴを持って、頭には麦わら帽子を被って、途中で美味しい水を飲んだり、木陰で休憩しつつ、山菜を採りながら私は緩やかな傾斜を駆け上がる。

カゴも一杯になり、いつもならここで引き返すのだが…。
今日は天気も良いので、少しだけ散歩をしてみよう。…そう思い、私は更に坂道を登った。




さあっと、風が吹く。
目の前に広がったのは、美しい花畑だった。



「なに、…ここ…」

色々な季節の花が美しく咲き乱れる、花畑。その向こうに広がる海の美しさに、私は言葉を失う。
ふわりと花のにおいが漂い、私は引き寄せられるようにその中心へと歩く。

すると、花畑の中に…誰かがいた。



「…あ、」


あの女の人だった。
すやすやと花に包まれて眠る、美しい女の人。…何と画になることか。

風が吹き、彼女の長い髪を揺らす。…不思議な空間だった。
すると、彼女の長い睫毛が揺れる…。それと同時に美しいアメジスト色の瞳が私を射抜いた。



「……誰?」
「…あ、あの…」
「…」
「ね、眠っているのを邪魔しちゃって…すみません!」
「…気に、しないで」

女の人はむくりと起き上がると、私と視線を合わせる。
綺麗な瞳に見つめられて、吸い込まれそうになった。言いすぎかもしれないけど、…それくらい美しいのだ。

女の人は私を少しだけ見た後、立ち上がり花畑の奥へと歩いていった。
彼女が着ている真っ白なワンピースが風に揺れる。何となく私も着いて行くと、彼女は大きな木の前で立ち止まった。

そこで私は、木の表面に何かが彫ってあるのを見つけた。
どうやら、誰かの名前のようだ。…擦れて見難くなっているが、二つだけ…名前が確認できた。


「アスベル…」
「!!」


アスベルとは、お墓に彫られていた名前…、ルイスが言っていた…ラント家の祖先の人…。
すると、私が呟いたその名前に反応した女の人がこちらへ向かってくる。


「アスベルを…知ってるの?」
「…え、い、いや…そこの木に彫ってある名前を…読んだだけ、というか…」
「…あなたは」
「…?」
「あなたは、わたしを…気味悪がらないのね」
「!!」


悲しそうに伏せられた彼女の瞳。
私は母親とルイスの言葉を思い出す。




「いいから忘れなさい!」

「あいつ、気味悪いんだよ…。何年も何年も、生き続けて…ラントに居座ってんだよ」




…、私は…この人の事が知りたい。
理由は…分からないけど、彼女の傍にいたいとおもったのだ。




「名前…」
「…?」
「名前と、言います」
「名前…」


女の人が、私の名前を囁く。
私が彼女を見続けていると、女の人は私をじっと見つめながら、自分の名前を呟いた。




「わたしは、ソフィ」








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