部内分裂が始まって、早一週間…。
先輩に反抗しようと決めた一年生の少数人は、先輩からの陰湿な苛めや陰口に耐えていた。
マネージャーである私も、時には物を隠されたり…先輩マネージャーから無視されたり…。苦しいけど、辛いけど…それでも喜多くんをはじめとする仲間がいたから、耐えてこれた。…だけど、誰とも関わろうとしない隼総くんは、一体どんな気持ちなのだろう。


今日も私たちはグラウンドの隅で練習をする。狭く、雑草もたくさん生えたその場所…。ゴールだってもちろん無いそこで練習なんてしても、捗らないに決まっている。それが分かった上で先輩たちは私たちにこの場所での練習を強要した。
先輩後輩って、なんなんだろう。先輩は後輩に、次の世代に受け継いでもらうために自分の持っているものを全て教えてあげる。そしてそれを、後輩は模倣から始めて…そして自分のものにして、そこから色々展開をさせて…そして上手くなって、それからそれを次の世代に渡す…。そういう、ものじゃないのかな?

喜多くんたちが上手いにしろ、やっぱり先輩たちとは実力が違う。…だからこそ、教えてもらわないといけないのに…。
今の状況では、それは無理な話だった。先輩たちだって、私たちに教えるのは嫌だろうし…。私たちだって先輩に教えてもらうのは嫌だ。

…矛盾しているかもしれないけど、どうしようもできない。…何か手はないものだろうか…。


「苗字」
「…え、あ…安藤くん、どうしたの?」
「膝切った。何か絆創膏とかねぇ?」
「絆創膏…、あ…さっき星降くんに貼ったので切らしちゃったんだ…。あ、じゃあ私倉庫から取ってくるから、水道で土落としておいて」
「一人で大丈夫かよ」
「すぐそこだから平気だよ」


安藤くんに笑いかけて、私は部室の中にある倉庫へ向かった…のだが。倉庫から聞こえてくる罵声…、少しだけ開いた隙間から倉庫の中を覗くと、この間私を突き飛ばした先輩を含めた数人と、囲まれている隼総くんがいた。また、呼び出されていたんだ…。


「お前マジ生意気なんだよ」
「一年の数人もウザってぇし、何なんだよ今年はよ!」
「おい、さっきから黙ってねぇでなんとか言ったらどうなんだよ!」
「………」
「何とか言えよ!」


何も言わない隼総くんに痺れを切らした先輩の一人が、掴みかか…っ、駄目!
私は倉庫の扉を開けて、先輩と隼総くんの間に体を滑り込ませる。


「マネージャー!?」
「ぼ、暴力したら…監督に言いますから」
「ッチ」

すると、先輩たちは私をひと睨みすると倉庫から去っていった。…はあ、助かった。
隼総くんを振り返ると、彼は突然の乱入者に驚いたみたいで、少しだけ目を見開いていた。だけど、すぐに表情を戻すと不機嫌な顔で私を睨んでくる。


「何だよお前」
「マネージャーの苗字名前です」
「いや、知ってるけど。…そんなことじゃない」

隼総くんが私の名前を知っていてくれたことに少しだけ感動を覚えながら、私は隼総くんになんて答えようか迷っていた。
だが、何も言わない私に痺れを切らした隼総くんが口を開くほうが早かった。


「お前ら、アイツらに喧嘩売ってるんだろ?」
「け、喧嘩は売ってないよ…ただ、少し衝突しちゃってるだけで…」
「馬鹿だろ」
「ば、ばか?」
「……、」

そのまま、隼総くんは何も言わずに倉庫を去っていった。
そういえば…、隼総くんは天河原を監視しにきたんでしょ?…先輩たちのことを、フィフスの人に言ったら…圧力がかかって呼び出されることもないだろうに。何でこのコトを報告しないんだろう…?

あ、でもシードに逆らう生徒がいる、って言ったら…天河原は潰れてしまうかもしれないんだよね?…うーん、そうすれば隼総くんは仕事が無くなっちゃうから言わないのかな?うーん…、まあフィフスのことなんて殆ど何も知らない私があれこれ考えても仕方ないよね。あれ、そういえば私…何かを…あ!安藤くんの絆創膏!


急いで倉庫から見つけて持っていくと、喜多くんが物凄い形相で駆け寄ってきた。


「苗字さんっ!大丈夫か!?今安藤から聞いたんだが、一人で倉庫へ向かったって!駄目じゃないか!ただでさえ危ないのに!でも苗字さんも苗字さんだが安藤も安藤だ!あれほど彼女を一人にしないでくれと頼んだのに!ああっ、もう!」
「え、あ…き、喜多くん?」
「おい喜多、お前ちょっと過保護すぎるぞ」
「お前達が危機感がなさ過ぎるんだ!」
「き、喜多くん…あの、ごめんね?こ、こうして無事なわけだし…今度からは気をつけるから…」
「…そうしてくれたら、嬉しい」
「心配してくれたんだね、…ありがとう」
「今度からは気をつけてくれ。苗字さんに何かあったら…俺、」
「うん、ありがとう喜多くん。じゃあ私安藤くんを治療するから」
「ああ、ああ。じゃあ俺も練習に戻る。安藤、すぐに戻ってこいよ」
「おう」

喜多くんが去っていく。…なんだか、嵐でも通り抜けたような感じだ。
安藤くんが少しだけ呆れたようにため息をつく。



「喜多って、…お前のお袋か何か?」
「た、多分違うと思う、…かな…?」





20111023



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