喜多くんと待ち合わせた場所は、電車の中だった。喜多くんが乗ってきた電車に私が乗って、そこで会う…予定ではそうだったのだが…



「(あーあ、抜かったな…)」

電車には時間通りに乗ったのだが、そこで気付いた。
喜多くんは一体どの車両に乗ったんだろう…


メールをすると、すぐに返事がきた。喜多くんは今一両目にいるらしい。ちなみに自分は、八両目にいる。完全に反対側だ。
車内にはゴールデンウィークのためか、通常よりもたくさんの人が乗っていて、そんな中を歩いて行くのは少し恥ずかしい。だけど、一時間以上の道のり。一人でいるのは少々寂しい。だから、私と喜多くんは真ん中辺りで落ち合うことになった。


五両目辺りで、見慣れたオレンジ色が見えた。向こうも私に気付いたのか、手を振っていた。そして、近くに彼が来た瞬間私は笑いはじめる。つられて喜多くんも可笑しそうに笑った。

近くに座っていたおばさんがこちらをジロリと見たので、笑うのを止めて、シートが空いていなかったので座るのを諦めてドアに背を預けた。
それから一時間電車に揺られ、目的の駅まで着いた。

芝生公園への無料送迎バスが出ているとのことなので、バス停に向かうとバスはもう発車しそうで…!私と喜多くんは走って何とかそれに乗り込むと、一番後ろの座席に腰をかけた。


「あー疲れたー!」
「はあ、はあ…乗れてよかった。次のバス、一時間後らしいし」

喜多くんが見ていたのは、車内にある時刻表だった。ホントだ、一時間おきしかない…!
とりあえず、乗ることができてよかった。




芝生公園に到着して、喜多くんと園内を見てまわる。
色とりどりの花々が綺麗に植えられていて、喜多くんと二人で少しだけはしゃいだりした。



ゴールデンウィークなので、家族連れが多い。芝生広場には色々なスポーツをして遊んでいる兄弟や親子がいる。
近くのベンチで屋台で買った昼ごはんを食べながら、その光景を微笑ましく眺める。

お昼を食べ終わって、しばらく談笑をしていた時、喜多くんの足元にコロコロとサッカーボールが転がってきた。

そこへトコトコと小さな男の子がやってきた。喜多くんがボールを拾い、手渡すと男の子はニコリと笑って駆けていった。男の子はお父さんらしき人に駆け寄り、ボールを楽しそうに蹴った。

それを見た喜多くんが、優しく笑う。


「俺も、あんな風に父さんに遊んでもらったことがあるな…」
「小さい頃からサッカーが好きだったんだね」
「…ああ」


少しだけ悲しそうな顔をした喜多くん。…ここには気分転換で来たんだ、こんな顔をさせるためじゃない。
…そうだ!


「この公園ね、滑り台があるんだよ。何メートルもある、大きいやつ!乗ってみない?」
「滑り台?」
「芝生公園に来たら絶対滑っておかないと!だから、ね?」
「…そうだな、分かった。連れて行ってくれ」


喜多くんの言葉を聞いた瞬間、私は彼の手を引いて駆け出す。最初は驚いていた喜多くんだったが、その顔を段々と笑顔に変えて、私と同じように全速力で走り始めた。









「ごめん喜多くん…、本当にごめん…!」
「いや、そんなに謝らなくてもいいって!」
「いや…でも、本当にごめん!」


滑り台は小学6年生までが対象だった。
丘の上まで無駄足を踏ませてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「いいって、苗字さんと坂を駆け上がるの、中々楽しかったし」
「喜多くん…!」


なんて優しいんだ、喜多くんは…!こんなに良い友達に出会えて、本当に私ってば幸せ者だなー…。
すると、喜多くんが私の方を向いて微笑む。


「…ありがとう」
「え?」
「俺のこと、気遣ってくれたんだろ?」
「…」
「…俺、まだ納得できないけど…。俺なりに頑張るから、…だから」
「私、何も出来ないかもしれないけど…話を聞いたり、見守っていることくらいはできるから」
「…ああ」



練習試合は明後日だ。




20110728



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テーマ「人外ファンタジー」
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