マネージャーをはじめて一週間が経った。

部活が始まる20分前、一年生たちは集まりボールを倉庫から出したり、ロッカールームの掃除をしたり…所謂雑用をするために早く集まらなければならない。だけど…


「今日もアイツ来てないのかよ!」
「フィフスセクターのシードだか何だか知らないけど、調子にのんなってかんじ」
「本当だよなー」


アイツ、というのは新入生の隼総くんのこと。

その前に話しておこう。先輩に教えてもらったのだが、今やサッカーは学校の社会的地位まで決めてしまうほどの影響力を持つスポーツになってしまったらしい。
サッカーが出来れば優遇され、出来なければ扱いが悪くなると言う事だ。

そのため今の中学サッカーは「フィフスセクター」という組織に管理されているらしい。全ての学校が平等に「勝ち」を得るためだ。

「フィフスセクター」によって勝敗から得点まで全てを決められてしまう。試合のたびに勝敗指示がきて、その指示に従わないと自分や学校の将来が危ないらしい。それこそ、扱いが不遇になっていくというわけだ。


「フィフスセクター」に監視されていると言う事は、自由にサッカーが出来ない…ということだ。

一年生たちは先輩にそれを聞いたとき不満を口にしたが、先輩たちはどこか諦めているようで、一年生が何を言っても軽く流すだけだった。
まあ、先輩たちもサッカーが出来なくなるのは嫌だから…フィフスセクターに従っているのだろう。

そして、私たちはまだ中学サッカーの試合を見たことが無い。
きっとフィフスセクターの管理サッカーを見ることで、諦める方向に意見が変わる子も出てくるんだろうな…


私だって当然疑問に思った。
小さい頃の楽しかった、自由なサッカーとは違う「管理されたサッカー」
勝敗の指示まで決まっているなんて…。なんというか、残念だ。喜多くんだってそうだ。楽しく、だけど本気のサッカーをするために入部したのに、中学サッカーがこんなになっていたなんて、思ってもみなかっただろう。


…話が反れたが、その「フィフスセクター」から送られてきた「監視者」…それが、隼総くんだった。

入学式の日に部室で一悶着起こしたのも、彼らしい。何があったのかは知らないが、先輩たちが隼総くんを悪く言っていたので、良いことがあったとは思えない。


隼総くんと直接話をしたことはないのだが、彼の言動を聞く限りかなり強気な性格で、自分はシードだから準備に来る必要が無い、勝手にやってろ…そう言ったのが4日前だったか。

あとは部活に参加しなかったり、隼総くんと同じクラスの子によると授業にも参加していないみたいで、まあ…こう言っては何だが、問題児なのだ。


そのほか諸々の理由を含めて、隼総くんは同級生、上級生に嫌われていた。




入部してから7日目の部活動が終わった。
マネージャーの先輩に挨拶をしてから、男子更衣室の前で喜多くんを待つ。喜多くんとは毎日駅まで一緒に帰っているのだ。

すると部室のドアが開いて、出てきたのは隼総くんだった。彼は制服をだらしなく着崩しているのだが、様になっていて何だかかっこよく見えた。
同級生だし、挨拶くらいしないと…と思い、バイバイと言うと、隼総くんは私をチラリと見て、何も言わずに去っていった。まあそんなもんだよね。


すると、その後すぐに喜多くんと…もう一人誰かが出てきた。彼は確か…

「あー!喜多の彼女〜」
「ち、違うっ!苗字さんとはそんな関係じゃ…」
「えーと、西野空くん…だよね?」
「あ、覚えていてくれたんだー!ボク、西野空宵一。よろしくねー彼女さん」
「だから彼女じゃない!」
「あははっ、冗談だって。苗字名前ちゃんだよね?名前ちゃんって呼んでいい?ボクは宵一でいいよ〜」
「うんいいよ、宵一」


私が名前を呼ぶと、西野空くんは可愛らしく首を傾けながら笑った。なんというか…その辺にいる女の子よりも可愛いなあ。


「ねえ名前ー、今日ボクも駅まで一緒に帰っていいかな?」
「もちろん」
「やったあ!ごめんね、喜多。邪魔しちゃって」
「別に邪魔なんかじゃ…」
「そーう?最初に聞いたとき顔顰めたじゃん」
「だから違うって!」


珍しく大声を出している喜多くんを不思議に思いながら、私たちは部室塔を後にした。



20110710




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