先輩たちとの関係が悪いまま、数日間が過ぎた。相変わらずグラウンドの隅で練習をしていたのだが、とうとうこちら側の何人かがそれに耐えられなくなった。
練習後、宵一が頬を膨らませながら近くにあった小石を蹴り飛ばした。
「もうっ!なんでボクらがこんな扱いを受けなきゃいけないんだよ〜!」
「確かに、意味わからねぇぜ」
「何様ってかんじぃ。ほんっと、殴ってやりたい」
「西野空、それは…」
「はいはーいっ、わかってますよぉーっだ。でも、それでもほんっとうざいっ!」
宵一の言うことはもっともだ。
せっかく夢を目指してこの天河原中サッカー部に入ったのに、ずっとこんな状態ではまずい。
私は誰もいなくなったサッカーグラウンドを見る。……ん?…そうだ!
「あ、あのさ、みんな!先輩たちがこうして帰った後に、グラウンド使って練習するのはどうかな?」
「!確かに、いいかもしれない!先輩たちに小言を言われることもないし、自由に練習ができるな」
「そのかわり、遅くまで学校に残ることになるけど…大丈夫?」
「ああ、俺たちは大丈夫だ。それに俺たちより苗字さんは大丈夫なのか?家も遠いんだろう?」
「私は大丈夫!ねえ、みんなさえよければ…やろうよ!」
「ああ、もちろんだ!先輩に負けないくらい…ホーリーロードに出れるくらい実力をつけよう!」
それから一か月後、私は部活どころか放課後の秘密練習にも遅刻してしまった。理由は先生に呼び出されたからだ。
「はあ…喜多くんは大丈夫だろうけど、安藤くんや宵一から色々言われるだろうな…」
あの二人は辛辣だから何か言われたら心にグサッときちゃうんだよな…
はあ、少しだけ憂鬱…。ううーん、でもそれよりもまずは遅れた分頑張らないとね!
そう思いながら、ぐらうんどへ続く階段を上りきった時だった。
「ふざけんなよっ!」
「…え?」
突然聞こえてきた罵声、そしてバキッという鈍い音。
私は持っていたカバンを落としてしまった。
「―――――っ!」
言葉が出てこなかった。
グラウンドでは、この時間はもう帰っているはずの先輩たちが…喜多、くんたちを…喜多くんたちを…
私は急いできた道を戻る。なんでなんでなんでなんでなんで?
なんで喜多くんたちが殴られてるの?なんで、なん…で…。……ぁ…
考えられるのは一つだけだ。
グラウンドを使っていたのが、バレた…?
っ、でも…それでも!そんな理由で…人を殴るか?…もしかしたら、先輩たちとの間に何かあったのかもしれない。
でも。グラウンドを使おうと提案したのは私だ。…私の、せい…なのかな。
…心臓が誰かに掴れたかのように苦しくなる。私はその苦しみをこらえながら、職員室のドアを開いた。
「先生…グラウンドでっ…!」
…思えば、これが始まりだったのかもしれない。
天河原が変わる日、改革の時。
この選択が本当に正しかったのかは分からないが、私たちが己の信ずるものを貫き通した、私たちの青春の形。
20120611