「姉貴…」

ティトレイさんの声が、部屋の中に悲しく響いた。
私は武器を仕舞うと、みんなの後ろへ行って傷ついたティトレイさんを見つめる。
戦いの最中も、ずっとセレーナさんを呼んでいたティトレイさん…。私は羨ましかった…、セレーナさんもティトレイさんも羨ましかった。
もし私たち兄妹がティトレイさんたちの立場だったら…、いや…考えるのはよそう。そんなこと、考えるだけ無駄だから…

すると倒れていたティトレイさんが起き上がった。

「…おれ、は…。…っ!そうだ、姉貴!!」
「落ち着くんだ、ティトレイ」
「…あんたたちは…?って!お前っ!」

ティトレイさんが私の方へ詰め寄ってきて、私の首元を掴む。

「てめえっ!アイツらと一緒にいたやつじゃねーかっ!姉貴をドコへやったっ!」
「…」
「止めてティトレイ!名前は…!」
「いいの、マオ。…ティトレイさん、すみません。…本当に申し訳ないことをしました」
「謝ってすむ問題じゃねえんだよっ!」
「止めろ。ティトレイ、名前はもう奴らから離れたんだ」

ヴェイグさんがティトレイさんの肩を掴み、私から引き離した。ヴェイグさんが私を庇ってくれたことに、少しだけ驚いた。

「…だけど、コイツは姉貴を…!」
「だが、名前は正気を失ったお前を助けたんだ」
「正気を失った…?どういうことだ?」

どうやら、フォルスが暴走していた間のことを覚えていないらしい。ユージーン隊長が先ほど起こったことを話すと、ティトレイさんの表情は驚きへと変わっていった。

「…そうだったのか、本当にすまないことをした」
「いや、あの場合は仕方がなかった」
「……いや!この借りはこれからの旅で必ず返すぜ!!」
「これからの旅って?」
「あんたらも、その王の盾を追ってるんだろ?だったら、俺が仲間になるのは当然じゃないか?」
「仲間?」
「共通の敵を持つ仲間だ!それにみんな、同じ力を持ってんだろ?よろしく頼むぜ!…ただ」

ティトレイさんは先ほどまで笑っていた顔を、真剣なものに変える。

「お前のことは、正直まだ信用できねえ」
「…はい」
「…だからこれからの旅で見極める。それでいいか?」
「え…」
「だから、お前がどういうやつか見て、それからどうするか決める」

そう言い切ったティトレイさん。…強い人だ、この人も。…クレアさんと同じように、強い人だ。
私だったら、ティトレイさんみたいに思えない。きっと、一緒に旅をするのも嫌だ。
だけど、ティトレイさんは違った。私にチャンスをくれたんだ。…だったら、私もそれに応えないといけない。

「…ごめんなさい。…ありがとう、ティトレイさん」
「ティトレイでいいぜ。…とりあえず、よろしくな」

ティトレイはそう言うと、先に工場から出て行ってしまった。

「名前…大丈夫?」
「大丈夫だよ、マオ。心配してくれてありがとう…」
「何かあったら、言うんだよ。ボクはいつだって、名前の味方なんだから!」
「…うん」

これからどうなるか分からないけど…、でも…何となくだけど、やっていけそうな…そんな気がした。
ひとまず工場の外に出ると、ティトレイさんがやってきた。

「待ちくたびれたぜ!ところで、これからドコへ行くんだ?」
「…サニイタウンで、何泊かすると聞いていました」
「ということは、サニイタウンから船…か?」
「すみません。それは、分からないです。バルカへ行くルートは機密事項で四星しか知ることが許されませんでした」
「お前はクレアたちを連れ去る理由も知らないと言っていたな」
「…はい。お役に立てなくて、すみません」
「まあ知らないんだったら仕方ねえよ、気にするなよ?」
「…ごめんなさい」
「だーっ!あと、お前謝りすぎっ!いいか、遠慮なんてすんなよ?」
「…ありがとう、ティトレイ」
「おう、それでいいよ」


「色々ありましたが、なんだかあの二人…いい雰囲気になりそうですね」
「え、駄目だよそんなのっ!ちょっとティトレイ!名前から離れてヨ!」

「若いな」
「…どういうことだ?」



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