「漆黒の翼の三人をラルレン大橋に就かせました」
「そう。まあ彼らじゃ五分と持たないと思うけど、アレを渡しておいたから大丈夫でしょ」
「…?」
「ふふっ、まあそれはお楽しみに」
「…はい」

ミナールについてすぐ、私は兄さまに頼まれて漆黒の翼をマオやユージーン隊長のもとへ向かわせた。
兄さまの言うアレとは何?でも、兄さまが大丈夫と言っているんだ。…きっと、大丈夫なんだよ。だけど、そのせいでマオが傷つくのは嫌だな。…マオ、私は…あなたと一緒に…

「そうだ、名前。クレアさんが怪我をしたみたいでね。医者のもとへ連れて行ってあげてよ」
「わかりました」

私は兄さまに返事をすると、宿屋のある一室に向かった。今までさらった女の子たちを閉じ込めておくための部屋だ。
ドアの傍に立っていた兵士にクレアさんを連れてきて欲しいと頼むと、すぐにドアの鍵を開けて中にいる女の子たちに呼びかけた。

「クレアという者、名前様がお呼びだ。出ろ」
「…はい」

クレアさんはとても美しいヒトだった。綺麗な長い金色の髪に、パッチリと開いた海のような色の瞳。連れられてきた女の子の中でも、一際美しいヒトだと思う。

「手に傷があると聞きました。医者で見てもらいましょう」
「え?…わ、分かりました」
「逃げないでください。逃げたら、…」

私はその場に鋭い風を吹かせる。これは私の風のフォルスの力だ。びゅんびゅんとクレアさんの周りを囲むように風を作り出す。

「切ります。容赦なく」
「大丈夫よ、逃げません」

力強いキラキラした瞳で私を見てくるクレアさん。私はその視線に耐え切れず、視線を逸らした。強すぎる、このヒトは。私はこのヒトとは違いすぎる、だから…見ることが出来ない。見ることが、怖いよ。
クレアさんの後から風を起こしながら医者のもとまで連れて行き、治療してもらうのをじっと見ていた。すると、医者の女性に何かを囁いていた。不審に思った私は彼女たちのもとへと歩み寄る。

「治療が終わったのならこれで失礼させていただきます。治療費は軍の方へ請求してください」
「ええ…分かったわ。」
「あの、ありがとうございました」
「いいえ、お大事に」

医者に挨拶をするクレアさんの腕を掴み、部屋を後にする。
するとクレアさんが私に話しかけてきた。

「ねえ、あなたはあのサレという人の妹なの?」
「…」
「あの時、兄さまって呼んでた気がして…。私もお兄さんのような人ならいるの。私たちいっし「黙れ」

一緒?一緒なわけがない。
私は自分の思いも持つことが出来ない弱いヒューマ。あなたは強い意志を持っているヒューマ。
一緒にしないで。一緒にされると、自分が更に惨めに思えてくる…。

これ以上彼女といるのが苦しくて、近くにいた兵士にクレアさんを預けて、私は自室へ戻ろうと思った。
…だが、その途中でトーマ様に会ってしまった。

「おお、誰かと思えばサレのお人形じゃないか」
「…」

これだから、トーマ様は嫌いだ。
私が何も言わないことをいいことに、好き勝手に暴言を吐いてくる。
だけど、トーマ様の言う事にも一理ある。…だって、私は本当に兄さまの人形だから。
兄さまの言う通りに動いて、何もかも…自分の意思で行動しない。まるで人形のような、何も出来ない…人形の、ような。

「…」
「少しは言い返したらどうだ?もしや、本当に人形なのか?サレが近くにいないと、本当に何も出来ないクズだな」
「…私、は「何をやっているトーマ」
「チッ…サレか」

トーマ様と私の間に割り込むような形で立った兄さま。少しだけホッとする。これ以上、トーマ様と話したくなかったから…。
兄さまが嵐のフォルスで突風の風の壁を作る。それはトーマ様を囲い、ゆっくりとトーマ様に向かって近づく。兄さまの顔に笑顔は無かった。

「もう一度聞くよ?僕の大切な妹に何をしているのかな」
「チッ、何もしてない!いいからこれをどけろ!」
「…フン」

兄さまがフォルスを解くと、トーマ様は舌打ちをしながらここから去っていった。

「大丈夫だった?」
「…はい、ありがとうございます」
「良かった。名前が傷つけられるのは嫌だからね」


…兄さまは優しい。…だけど。

私の心の中に、トーマ様から言われた「人形」という言葉が響く。
兄さまは、私をどうしたいの?人形として、都合のいい人形として…扱いたいの?…こうして、優しくしてくれるのは…私が兄さまのもとから逃げ出さないための…嘘なの?

分からない、分からない…わからな、い


「名前?どうかしたのかい?」
「…いえ、何でもありません」
「辛いようなら部屋で休んでもいいんだよ?外からしっかりとドアに鍵をかけてあげる。トーマが入ってこられないようにね」
「…わかりました」

鍵をかけられているのは、私だ。ドアじゃなくて、私…だ。

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