スールズは兄さまの言う通り何もない村だった。だけど、のどかで暮らしやすそう。…少し肌寒いのが気になるけど。

「(自然が多い…)

遠くの山を見ると、うっすらと雪が積もっている。あれが雪…、はじめて見たはずなのに懐かしいと思うのは何故だろう。
ぼーっと山を見つめていると、兄さまがこちらにやってくる。

「雪なんて見てもいいことなんて何もないよ」
「兄さま、分かりました…」
「…ふふっ、いい子。さて、トーマを追いかけようか。奴一人に任せられないから…おや。お友達がやってきたよ」

兄さまがレイピアを抜くのと同時に聞こえたバイラスの声。私は武器の爪をバイラスに向けた。兄さまは私の前に立つと、支援をよろしくと言った。それに返事をして、兄さまの後ろに立って詠唱を開始した。
私たちの護衛でついてきていた王の盾の兵士も応戦するが、何分数が多い。兵は傷つき、乗ってきた馬車は破壊され、あっという間に手薄になってしまった。

「兄さま、トーマ様を呼んできた方が…」
「…フォルス能力者が聞いて呆れる。吹き荒れろ!狂乱の嵐!シュタイフェ・ブリーゼ!!」

兄さまの最も強力な技を使うと、瞬く間にバイラスたちは消えてなくなってしまった。私が兄さまに駆け寄ると頬を叩かれる。

「トーマに頼るだと?ふざけるな。それにお前は自分で判断するな、今朝言い聞かせたばかりだろう」
「…申し訳、ありませんでした」
「ああ、それでいいんだ…それで。…痛かったね、ほら見せて?」
「…はい」

兄さまは私の頬を優しく撫でると優しく私を抱きしめる。…今朝抱いた思いは、更に強くなる。これで、いいの?このままで、いいのかな。

「…さて、随分被害が出たね。…まったく、僕はそろそろトーマが暴れだす頃だと思うから行かないと。…負傷者と馬車の手配について、頼んでいいかな?」
「はい」
「じゃあ僕は行くよ。終わり次第僕に報告しに来てね?」
「…はい」

兄さまがスールズの中に消えていく。私は負傷していない兵を集めて兄さまに言われた通りに動いた。
一通り終わった後、私は誰にもバレないようにため息をついた。…兄さまの言う通り、か。自分は昔から兄さまに言われて全ての物事を判断してきた。…今まではそれをおかしいと思ったことはなかった。だけど、マオに言われた日から…どんどんそれを疑問に思うようになっていった。…とりあえず、兄さまに報告に行かないと。

林道を通り抜けていくと、何人かの兵と一般の人がいた。そして、空には…

「!!な、んで…」

ガジュマの女性が嵐のフォルスの力で浮かんでいた。…なんて事を、兄さまは…。民間人に危害を加えてはならなかった筈なのに…!

「兄さま、何を…!」
「名前っ!?」
「マオ…?」

声のしたほうを見ると、なんとマオがいた。それにユージーン隊長も…なんでこんな所に…?

「名前、何か文句でもあるのかな?」
「…ですがっ!」
「いい加減にしなよ。君は僕の言ったとおりに動け」
「……」
「話を戻そうか。クレアちゃん、わかるよね?あのガジュマのおばさんの命は今、キミの手の中にある」
「……」
「どう?命って重いのかな?」
「…わかりました…」
「ダメだ、行くなクレア!」
「お前は黙ってろ」
「貴様っ!」

兄さまが無言で銀髪の青年に手を向ける。手には物凄い力が集まり、嵐となって青年に向かって行く。
もろに攻撃を食らい、銀髪の青年は倒れた。

「お前の命は軽いよ」

それでも青年は立ち上がり、兄さまに向かって剣を抜く。…兄さまが!
私が爪を装備して向かう前に、ユージーン隊長が銀髪の少年のお腹に拳を入れた。

「さすがは隊長」
「……」
「な、なぜだ…。…ク、クレア逃げろ!」
「では行こう、クレアちゃん」
「その前に、おばさんを降ろしてみんなを解放してください。そうでないと、私は行きません」
「クレア…」
「クレアちゃん、キミが本当に僕たちと行くって事を約束してくれたら、彼女たちは解放してあげるよ」
「約束します。だからみんなを…」
「分かった。娘たちを解放しろ」

兄さまがフォルスの力を緩めると、ガジュマのおばさんは地上に降りてくることが出来た。
そして王の盾に拘束されていたスールズの皆さんも無事に解放される。

「名前、先に馬車へ行って準備をしてきて」
「分かりました」
「名前っ!」
「マオ…」
「無視しろ、名前」
「…はい」
「名前っ!なんでこんな事を…!」
「…」

マオを無視して、私は元来た道を戻る。彼が私を呼ぶ声が聞こえなくなるまで、私は無心で歩き続けた。


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