勝負は一瞬だった。
あの場の誰が、大木を振り回したら竜巻が起きて岩が降ってくるなんて予想出来ただろうか…。
えぇ、彼と私以外吹っ飛ばされちゃいましたとも。
初対面、尚且つ彼の事を調べていない私達にはそんな想像できるわけがない。
しかも、希少な婆娑羅者が…とゆうか一国の主がこんなとこで1人…湯に浸かっているなんて思うわけないじゃないか。
そして、一時の平穏を手に入れた私は今、彼の提案もあり行動を共にさせて貰っているのだが…
一つ聞いていいか、木は乗り物でしたっけ?
馬も牛もいないのに前に進んでいくんですが…
えぇ、土煙を立てながら。
「乗り心地はどうじゃ?」
「…え、なにぶん初めてですので…、……この子は喜んでるみたいですけど…」
「そうかそうか!」
尻尾を引きちぎれんばかりに降ってる仔狼…名前は洸(コウ)。
それに見て楽しそうに笑う甲斐の大名…武田 信玄。
「…何故、私を助けたんですか?」
名前は教えて貰ったが、(とゆうか勝手に自己紹介してたが)理由を教えて貰っていない。
…まぁ、恩でも着せとけば使い勝手もいいし、そこら辺だろうけど。
…人間なんてそんなものだ
そんな事をつらつら考えていれば、洸が私の膝を降りて彼の足下に走っていってしまった
「ふむ、理由か…。ただ単に手負いに複数とゆうのが許せなかっただけじゃよ。…とゆうのは立て前で、…特にはなにも考えておらんかったのぅ」
よーしよし、と抱き上げた洸に顔を舐められ、くすぐったそうにしている信玄公。
洸は…裏のある言葉には反応するし、それを吐く心の黒い人間には私を例外として絶対に懐かない。
その洸が懐いている彼はきっと、私達にとって悪人ではないのだろう。
言ってしまえば、現状だけ見るとただの良いおっさんにしか見えない。
なんじゃそりゃ、そんなんじゃ助け損じゃないか。
と内心思う。
「あぁ、でも一つあったのう」
その言葉に、俯いていた顔を上げればパチリと視線が合った。
「一目で惹かれた人間を救うのに理由はいらないじゃろう?」
悪戯が成功したようにニッ、と笑った信玄公。
その表情にドキン、と胸が跳ねたのはきっと、
…気のせいなんかじゃないんだと思う。
end..
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bkm