先制は、相手。
八割程、仲間の到着まで時間稼ぎをするものと考えていたので攻撃は受け止めたものの、少し踏ん張りが足りなかった私は吹っ飛ばされ、崖の側面に叩きつけられた。
「…っ!!」
まるで「大丈夫?」とでも言うように頬を舐めてくる仔狼。
そして顔を上げた先には、何故か私に背中を見せ、壁のように立ち塞がっているおっさん。
「え…?」
腰布一枚で何やってんのこいつ…
「…手負いに複数とは情けないのぅ…」
その言葉に、おっさんの先を見れば、複数の黒装束。
…追いつかれた。
焦燥と少しの戸惑い…
(…なんで、この人は私の前に立っているんだろう…)
「!…ほぅ、掛かってくるか!」
追っ手の奴らが武器を構えて飛びかかってきた。
すかさずこちらも小刀を構えたのだが…、おっさんはあろう事かそこに生えている大木に手をやったので、一瞬思考が止まってしてしまった。
(ちょっと、この状況で何やってんのこのおっさん!死にたいわけ!?)
よろけたわけではない…。
…、まさか。
ふと、その木を武器にするなんて有り得ない考えがよぎるが、流石にねーよ。と、考えを振り払う。
「ふんっ!」
いや、…えぇ?!
メキメキと音を立てて地から離れた…いや、もぎ取られた大木…
…私の考えはあっさりと覆されてしまった。
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bkm