嵐のような一日が終わり、次の日の朝、私は母の呼びかけに目を覚ました
「んっ…」と時計を見れば十時半。
(今日は確か休みだったはず…)
寝ぼけた頭で母に謝った後、再び夢の中に旅立とうとした
「名無しー、今日のアルバイト十一時半からって言ってなかったかしらー?」
「!!」
その言葉にガバッと布団を剥いで飛び起きる
(そうだった!今日はパートさん達が旅行に行くとか何とかで頼まれてるんだった!)
服なんて着れればいいよと適当に引っ張り出してドタバタと着替えを済ませ、財布は別に無くていいやと、特になにも持たずダダダダと一階に降りた
「もう…忘れてたでしょう…」
「うん、すっかり!ありがとうっ!」
お礼を言いながら母のいるキッチンの横を通り過ぎ洗面台へ入る。
ダッシュで身支度を済ませ「行ってきまーす!」と玄関に飛び出せば父と蘭丸に遭遇した。
二人の手にあるグローブを見る限りキャッチボールでもしていたらしい。
ほんのり汗をかいている
「まったく…あれほど時間に余裕を持てと…」
「忘れてたんだもん仕方ないじゃん!」
今の状況を一瞬で見抜いた父の長くなりそうな説教を遮り、どいてどいてと自転車に跨れば「待ちなさい」と母に呼び止められた
「なに?」と振り返れば差し出されたおにぎり
「食べながら行きなさい。今日だけよ?」
そう言って微笑む母に「ありがとう!行ってきますっ」っと手を振って、おにぎりをくわえながら自転車をブッ飛ばした
「まぁ…」
「姉ちゃん…気付いてんのかな…?」
「……是非もなし」
名無しは、自分の後ろ姿をみた家族が唖然としていたことはもちろん気付かなかった。
(よし、この調子なら間に合いそうだ)
途中すれ違った元親先輩やら元就先輩に手を振っては通り過ぎる。
毎回毎回その後に「え?」とかゆう声が聞こえたが構っている暇はないので気付かないふりをした
―キキィ!!
チャリを停め、店内に入る
「すみません、まだ準備中…って名無しちゃんか」
中に入れば掃除をしていたらしい佐助と目があった。
「おはよー。なに、遅刻?」
「おはよ、いやーギリチョンセーフ!」
話しながらタイムカードの置いてある台へと歩いていく。
時間を見れば二十八分。セーフだ。
「よしっ」とガッツポーズを決めてピピッと打刻し、「着替えてくるねー」と佐助を見れば、なんとも言えない表情をしていた
「名無しちゃん…その格好でここまで来たの…?」
そういえば来るときも全員が全員、通り過ぎるたびに「えっ…」とかゆう声が聞こえたな…と思いだすが、そんなことより着替えが優先だよなと「…うん、」と返事をして更衣室に引っ込んだ。
「……あの文字が無ければ可愛い格好なのに…」
その呟きの1分後、名無しは佐助が何故そんなことを聞いてきたのか自分の目で確かめることとなった
(はぁ?…これ中学の修学旅行の時買った文字入りのパーカー…)
(なに?うなだれてるけどなんかあったの?)
(成実…遅刻しなきゃ見れたのにね)
(えっ!?嘘ぉ!俺遅刻?!)
090611