「ん…?」
買い物帰りに歩いていればなにやらあまり聞き慣れない、けれど確かに聞き覚えのある乾いた音と人の声。
(こんな真っ昼間からどっか抗争でもしてんのか…?)
自分一人ではどうにもならないだろうが確認しておくにこしたことはない。と、ビニールをガサガサ、その中からひょっこりと顔を覗かせている長ネギをゆさゆさ揺らしながら、オールバックのその人は音のする方へ足を向けたのだった
(政宗様、今日は夕餉にズレがでるやもしれませぬが放ってはおけませぬ、この小十郎をお許し下され)
後に人は語る。
ギンッと前を睨むあの顔
オールバックに頬の傷
丁度良いところで顔を覗かせたネギ。
その姿はさながら帯刀した893だったと…
―――
「元就…大変言いにくいんだけど…これ、結構時間かかるんじゃないかな?」
「ふん、貴様に二人分の重さの自転車を漕がせるわけにもいかぬだろう」
元就が乗ってきていた自転車で奴らを追いかけよう、速く辿り着くには…と考えた結果、元親の舎弟に目をつけた元就は、ひとつの自転車に三人+αという結論に至った。
ちなみに、順番はハンドルから、舎弟(漕ぐ係)、元就(サドルに正座)、半兵衛(荷台。元就と背中合わせ)、舎弟(押す係)である
「もっ…元就様…俺らもうこれ以上は…!」
「限界っス!!」
「無駄口を叩くでないわ!!我に使われているだけ有り難いと思えこの捨て駒どもが!」
ひーひー言う舎弟をバシバシ叩く女王、元就。
「…ごめんね、こんなことを頼んでしまって」
「い、いえ・・・」
元就とは反対に困ったように微笑む半兵衛。
その微笑みに優しさを感じた後ろの舎弟はホッとしたのか少し減速してしまった
「一応謝っておいたのだけど逆効果だったのかな?」
「へ?」
僅かに心にゆとりの出来かけていた舎弟の顔がみるみる青くなっていく
(なにか悪寒がするが…)
前の舎弟をしつけていた元就の背中にも、なにかがぞわっと駆け抜ける
「僕らには時間が無いんだ。…元就の言葉を借りるなら、…使えない駒はいらないんだよ」
…そこには絶対零度の微笑みを浮かべた悪魔がいた
(ひぃぃぃぃい!?)
(な、なにっ!?どうした!?)
(…やるな竹中)
(名無しの一大事だからね)
090519