「ゔーーっ」
「…まだ入ってもいねぇのにビビりすぎだろ」
「だって叫び声が…」
服の端を掴んで少し震えている名無しに政宗は言葉とは裏腹に、笑いを零したのだった。
―――
「お客様はおふたり様ですか?」
「あぁ」
「ふふっ、可愛い彼女さんですね!カップルの方には期間限定でこちらの指輪をご用意しております。ちなみにこのホラーハウスの入場券の代わりでもございますので、出るまでは外さないようお願いいたします。ではいってらっしゃいませ」
接客用語をマシンガントークし、にこやかに手を振る係の人。
名無しはカップルというwordが出てきてから口をパクパクさせたままである
―ズウウゥン…
いかにも重たそうな音がして入り口が閉まった
「…なんか、ごめん…」
「気にすんなhoney」
「…そのハニーっていつまで続くの?」
「俺が飽きるまでだな」
微妙な空気で立ち止まっていたが、そろそろ行かないと催促のtrapが発動するような気がして「行くぞ」と名無しを促した。
一歩踏み出した瞬間、ケラケラケラと大音量で響く笑い声にビックゥッ!!っと反応する名無し。
大袈裟だなと思いつつもニヤッと笑いが浮かぶ
「もーやだぁーっ…早く行こう早く!」
そう言って急かしはじめる名無しに「わかったわかった」と掴まれっ放しの服の端を引っ張られながらついて行けば、今度はビクッと立ち止まった。
「なんかいる…ねぇなんかいるんだけど…」
やだやだやだっと、動かなくなってしまった名無しを今度は俺が引きずっていく
「手出せ、手!hand!」
「へ、なんでっ?」
「服の端だと俺が引っ張りずれぇんだよ!」
半ば強引に手をひったくってズンズン歩き出す。
「や、やだぁ!行きたくない行きたくない行きたくないっ!だって絶対追いかけてくるパターンだよあの人っ!」
「だからといってずっとstopしてたら後ろの奴らに迷惑だろうが!追いかけてきたら全力dashで逃げりゃいいだろうが!」
「無理っ!私足遅いもんっ!」
「そんなら俺が担いで逃げてやるよyou see?」
「そ、それはそれでヤダよ…」
(うわぁぁぁぁあんっ!やっぱり追いかけてきたぁっ!)
(ちょっ、どんだけ逃げてんだよ!)
090703