小十郎はその夜、伊達組の門をくぐり、足早に次期当主である政宗の元へと向かっていた
「小十郎只今戻りました」
「Ah、遅かったじゃねぇか」
「申し訳御座いません。ですが仕事に差し支えはありませんのでご心配なく」
スッと襖を開ければそこにはなにやら落ち着きがない様子の政宗が座っていた
(…そういえば父の日、か…)
奥の方にある見慣れない紙袋が視界に入り、帰り道、少女に貰ったクッキーを思いだす。
「…巷では、父の日だなんだと騒いでいるようですが…政宗様もご用意を?」
そわそわしてなにか言いたそうだがなにも言わない政宗にちょっとした助け舟を出す。そうすれば政宗は少しはにかんで「バレたか」と笑った
(まだ可愛いとこもあるもんだ。こうゆうところはまだまだ年相応だな)
それを見た小十郎もフッと優しく笑ったのだった
「それにしても政宗様、父上殿には明日渡すので…?」
何故、父の日の夜にプレゼントらしきものが政宗の手元にあるのかという疑問にハッと気付き、それと同時に少ししょんぼりした輝宗様の顔が浮かんだ
(「おい、」あの方は政宗様の事も愛していらっしゃるからさぞかし悲しんでおられそうな「おい」…しかし、政宗様にももしかしたら急な用事が出来て渡しにいけなかったとか…いや、それはないな)
「小十郎っ!」
「はっ、…っ!?」
一人悶々と考え込む小十郎。
そんな彼が政宗の大声に顔をあげればそれと同時に投げ渡された細長い箱
「こ…これは…?」
「お前も父親みないなもんだからな。親父にはもう渡したから心配すんな」
襖から覗いている月を見上げる政宗につられて小十郎も空を見上げた
「…これからも美味い野菜を頼むぜ小十郎」
「…っ、は!!」
二人で見上げた月は小十郎の潤んだ瞳でも、今までで一番輝いて見えたそうな
―――
丁度その頃、織田家のお父さんはちょっとしょんぼりしていた。
「上総介様…、あんまりしょんぼりしていると蘭丸くんに失礼よ?」
むぅん…とソファに座っている信長に濃は緑茶を差し出した
「丸からのは丸からので嬉しいに決まっておろう」
そう言いながらズズッと茶を啜るが、やはりどこかそわそわしている
「ただいまー」
濃が六杯目のお茶を次げば、玄関の開く音と共に名無しの声が響いた
「おかえりなさい名無し」
「ただいま…って、え?お父さんまだ起きてたの?」
ひょっこり顔を出した名無しが、いつもはもう寝ているはずの父親に目を丸くした。
そしてそう言うなりタタタと階段を上っていってしまう
「…そろそろ寝るか…明日も早い…」
「あら…」
それを見送りながら、少し落ち込んだ背中で信長も部屋を出て行ってしまった
(あれ?お父さん寝ちゃうの?)
(うむ、名無しも早く寝るのだぞ)
(これ、父の日。朝会えなかったから)
(!!)
090622