「よーし、順調順調っ!」
バスケットの中を見れば残り僅か三つ。
(よし、これならさばけるな。二人はどうなんだろ…)
自分が一段落したところで、ハタッと二人を思いだした
キョロキョロと辺りを見渡せば真面目に配っている二人の姿が。
(おぉ…乗り気じゃなかった佐助まで…)
負けてらんねぇ!!目指すは一番っ!
そう気合いを入れ、いざっ!っと駅の方向へ向き直せば、一歩踏み出したらぶつかるというスレスレのところに人が立っていた。
「っ!」
びっくりして全身の毛が逆立った。
その場で固まって絶句していれば、「いや、失敬失敬」と笑いを押し殺したような馴染みのある声が降ってきた
「マ、マスター…?」
「いやはや、そんなに驚くとは思っていなかったのでね。」
そう言われると同時に頭をポンポンされる
「して、卿等は何をしているのかね?さっきっから見てはいたのでね、何かを配っているのはわかったが…真に奇っ怪でね、夜も眠れんよ」
そう呟き、顎に手を当てて二人を観察しはじめた
「あぁ…えっと今、父の日フェアでお父さんらしき人たちをターゲットにマカロン配ってるんですよ」
「ほう?」
「そんなわけでよかったらマスターもうぞ」
バスケットの中から一つ取り出し「はいっ」と差し出せば「ふむ、私に子供はいないのだがね」と言いながらも受け取ってくれる
「いつもお世話になってますから」
コーヒーに合うかもですよ?とニコッと言ってみれば、複雑な表情をされた気がしたが「ふ…ありがたく頂くよ」そう笑った顔はいつもとなんら変わらない不敵なものだった
―――
「みんな終わったー?」
「おう」
「うん」
夜九時半を回り、人もまばらになったところで戻るかーと話が持ち上がった
「あれ?名無しちゃん一つ残ってるよ?」
「おっ?今年は俺の勝ちか?」
「えっ、勝ち負けあるの?」
佐助が名無しのバスケットの中に気付けば成実がニヤッと笑った
「去年俺のけっこう残っててよ、プリン奢る羽目になったんだよ」
な?っとこちらを見てくる成実。
「だって食べたかったんだもん。てゆーかバカなこと言わないで、渡したい人がいるだけよ」
(あ、片倉さん!)
(げっ、小十郎!?)
(こんな時間になにしてやがる…、成実…テメェ今日バイトじゃねぇのか…?)
(バイト中だよっ)
(今、父の日フェアでマカロン配ってるんです!よかったら、いつもお疲れの片倉さんにも…って思って…)
(あぁ?そうか、ありがたく貰っとくぜ)
090619