〜成実ver〜
「おい!止まれおっさん!」
「!?」
中年男性の前に立ちふさがる成実。
男性は突然の出来事に眉をハの字にさせて少し困った顔をした。
「えっと・・私になにか用事かな?」
「あぁ、大有りだ」
口を開いた男性の声がうわずっているのは仕方がないだろう。
可愛い部類に入るであろうエプロンをした、見た目まんまヤンキーに声を掛けられてしまったのだから。
しかも、可愛いバスケットになんか袋を沢山詰めて。…いろんな意味で怖い
成実は、男の問いかけに大きく頷き、ジリッ…と詰め寄る
・・が、男はこれ以上距離を狭めまいとその分後ずさる
このご時世、おやじ狩りはあろうとも、こんな格好でするバカもいないだろう。
しかも駅前だ。
少し考えればわかる事だが、成実の鋭い目つきに(もしかしたら可愛いエプロンとかは油断させる為に身に着けてるのかもしれない)とか思っているのかもしれない男性にそんな考えがよぎるわけも無く、成実の振り上げた腕に、男はただただ心の中で奥さんの名前を叫ぶしかなかった。
白羽取りでも試みたのか、頭の上で手を合わせるおじさんの、程よく開いたスーツの合わせ目に、シメた!っとばかりにバスケットの中からマカロンを取り出し突っ込んだ
「よっしゃ!一人目!じゃあなおっさん!」
「え…」
すっごい笑顔で大きく手を振って自分から離れて行くヤンキー。
見ていれば、他の人にも同じ事をやり始めた
状況の把握が出来ないおじさんは、傍から見ればただただポカンとしているだけで・・
その心中、さっきの子伊達さん家の成実くんに似てたなぁ・・・
やっぱり伊達さん家の子はどこにいてもいい子なんだなぁ・・と暖かな気持ちになっていることはやっぱりその人しか知らないのだった。
〜佐助ver〜
(三手に分かれたからもしかして配んなくてもバレな…バレるか。)
ちょっと恥ずかしいんだよなーとため息を吐く佐助。
「こうゆう時に旦那が通ればいいのに…使えな「なにか言ったか佐助?」えっ旦那!?」
見知った声に顔を上げれば、そこには満面の笑みを浮かべた真田幸村がいた
(…俺様今ヤバめなこと口走ったような…)
やばいやばいやばいと心の中でめちゃくちゃ焦っている佐助を知ってか知らずか幸村は佐助の持っているバスケットを見つめて首を傾げていた
「佐助、それはなんだ?」
「これは…」
この時、佐助は(シメた!)と思った
(旦那さっき口走ったの気付いて無いみたいだし、甘いもの好きだし、押しつけてしまおう!)…と。
「今さ、俺様の働いてるお店でキャンペーンやっててさ。マカロン配ってるんだよねー…でも全然終わんなくてさ。旦那よかったら貰ってくんない?」
色々伏せたり捏造したりしてニッコリ笑った佐助に幸村もニーッコリ笑った
「断る」
「え゙!?」
まさかの返事に度肝を抜かれ、信じられないという表情のまま固まる佐助。
「ななななんで!?」
あの旦那が!?と思わず本物が疑いたくなった。
「うむ、今はあまり腹が減っていないのだ。「!!」それに…」
(絶対嘘だ、さっきの聞かれてた…っ、やばいやばいやばいよっ…)
どうしようどうしようと焦っている佐助を尻目にバスケットを指差す幸村
「"父の日"と書かれているではないか」
「ゔ…」
肩にポンッと手を置かれる佐助。
全身の血の気がサァァー…っと引いていくのがわかる
「手伝ってやらんことも無かったのだがな…まぁ1つくらいはお館様の為に貰っていってやる」
そう言って、見えるように袋入りのマカロンを持った手で「じゃあな」と手をひらっと振り、暗くなった道へ消えていったのだった。
「……真面目にお仕事しよ…」
顔面蒼白になった佐助は呟いた後、明日の自分を想像してキリキリと痛み出した胃を押さえるのであった
(お館様ぁ!)
(む?どうした幸村)
(父の日ゆえ、いつもお世話になっているお館様に感謝の気持ちでございまする!!
090618