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晋助と争ってから数日がたった。
あれから、1度も晋助とは顔を合わせていない。
「名前、グラスここに置いとくな。」
『あ、はい!洗っておきますね!』
土方さんとは、あれから何一つ変わらない。
まるで、何事もなかったかのように時が過ぎていく。
銀時さんから聞いた土方さんの過去の話、気になるって言えば気になるんだけど。
でもそれは私と出会う前の、私には関係のない話。だから、私がその話に触れて良いのかすらも分からない。
『……。』
「名前?」
『っ!どうかしましたか?』
「上の空だったけど、なんかあったか?」
『…何でも、ないですよ。』
そんなこと、私が気にしてもしょうがない。
ただ、いつか土方さんから話してくれたらいい、と心の中で思う。
「なら良いけど。なんかあんならすぐに言えよ?」
『はい!ありがとうございます!』
「おし!じゃあ、外回り行ってくるな。」
『気をつけてくださいね。』
私が見送ったのは土方さんの背中。
いつものように外で喧嘩がおきてないか土方さんが見回りの為に外に出て行った。
そして土方の置いたグラスを洗おうと手を延ばした時、ふと、視線を感じて顔を上げれば、目の前にはいつも晋助の隣にいる綺麗な女の人がたっていた。
あの時晋助に手を引ひかれて、私を嘲笑って出て行った女の人。
私と視線が合うと、女の人は微笑んだ。
「こんにちは。」
『…どうも。』
「頬、大丈夫ですか?」
『まぁ、大分良くなりましたけど。』
良かった、とあの時と打って変わってニコリと笑った彼女。
いつも私を睨みつけていたのに、ガラリと代わった優しい雰囲気に戸惑いが隠せない。
一体、何だって言うんだ。
「あれから大変だったの、」
『?』
「…高杉さんったら盛り上がっちゃって離してくれなくて、本当に大変だったわ。」
『……。』
それがどうしたっつーの。
そんな事私に言われたって返答に困るだけなのに。
彼女の話にさほど興味もないので、先ほど土方さんが近くに置いたグラスに再び手を伸ばして、冷たい水につけて洗っていく。
作業をしながら、目の前で話す彼女の声を流すように聞いていた。
「あなたも今まで大変だったんでしょ?まったく、高杉さんたらこんな子にまで手出しちゃうんだから困っちゃう。」
こんな子ってどんな子ですか?
なんて言葉が浮かんだけれど、モデル顔負けの素晴らしいスタイルを持つ彼女に言い返すのもなんだか負け惜しみのようになりそうだったから、ここは黙っておいた。
彼女はまるで晋助を自分のものだと主張するように話している。いや、晋助は彼女のものなのか。
彼女はいつも晋助の傍にいたし、あの時だって晋助は彼女の手を引いて出て行ったから。
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