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「お姉さん!ドリンクお願い!」
『はいっ!お待たせしました!』
「つーかお姉さんのほっぺすんげぇね!」
『あ、まぁ、…はい。』
あの誘拐事件の日から数日。今日は久しぶりの出勤日。
結局、あの時に受けた怪我がひどくて不覚にも仕事をしばらくの間休んでしまった。
私の頬には大袈裟なガーゼ。
今だに痛々しい痣が残っていて、まだガーゼを剥がすには早過ぎるみたい。
酔ったお客さんには理由をつっこまれ、常連の顔なじみのお姉さん達には本気で心配されてしまった。
っていってももう全然痛くないんだけど。
とにかく、今日1番安心したのは土方さんが休みだったこと。
人一倍心配性の土方さんには余計な心配なんてかけたくないから。
「おぉ、いたいた。苗字!」
『あ、店長!』
店長の声が聞こえて、そちらを向けば外回りが終わった店長が私のいるカウンターまで歩いて来ている。
良かった。店長のいつもと変わらない様子を見る限りでは外ではなにも問題はなかったみたい。
「相変わらずいつ見ても痛々しいなァそれ!」
『はは…。』
私の頬を見て苦笑いな店長。やっぱりこれ大袈裟ですよねぇ…
『と、ところで店長は私を探してたんですか?』
なんだかさっきの物言いは私を探してたみたいだったから。
「あ、そうだった!苗字さ、今日出勤してきたときに土方に会ったらマズイとかなんとか言ってたよな?」
『言ってましたけど…。』
そりゃこんな顔じゃ絶対にあの心配性の土方さんには会える訳がない。
『それがどうかしたんですか?』
「それがさ、さっき俺に連絡来たんだけど忘れ物したとかなんかで、今向かってるって。」
『…え?なにがですか?』
店長の言いたい事がイマイチ分からない。
そんな私を見て店長は困ったように頭をかきむしった。
「だから!土方がここに来」
「おつかれーっす!」
『あ、お疲れさまで……』
ポンと肩を叩かれて、他のスタッフかと思ってつられるように振り返れば
土方さんの姿。
『……。』
「……。」
突然現れた土方さんの姿に驚く私と、
私の頬の大袈裟なガーゼに目を丸くして驚く土方さん。
やっちまった、なんて店長の声が聞こえるけど、今の私はそれどころじゃない。
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