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「お姉さんドリンク!」
『はい!何にいたしましょう?』
週末の今日もこの街1番のクラブは賑わっている。
辺りを見れば音に合わせて踊っている人や、お酒を飲みまくっていたり、一生懸命ナンパしてたり、はたまた喧嘩寸前に睨み合っていたり様々人達で溢れ返っている。
あの、高杉家拉致事件(?)から数日。
そして私は今日もこうしてクラブに出勤している。
私はあの拉致られた日、奴がいつまでも解放してくれなかったせいで結局昼のバイトには大幅に遅刻した。
でも店長には普段遅刻とかしないから逆になにかあったのかと心配されちゃったけど。
怒られるかと思って焦りながら出勤したのに。
はぁ、とため息をつけば隣からは心配そうな土方さんの視線。
「あんまり無理するなよ。飯ちゃんと食ってんのか?」
『大丈夫ですよ!ありがとうございます!』
やっぱり土方さんは優しい。
というかまるで上京したての娘を心配する田舎のお父さんの様だ。
うん、土方さんなら良いお父さんになりそう。
「苗字!」
『あ、店長!』
「オーダー入ったからこれ持って行って!」
私を呼んだ店長の前にはドリンクが並んでいる。
「VIPだから急いでね!」
ニンマリと笑う店長。
VIPって…
『えぇっ!?』
なんでVIP!?
今日ってVIP使われてたの!?っていうかVIPの客って言えばあいつしかいないんじゃ…!
「あれ?苗字VIPのお客様と知り合いなんだろ?お前が運んで来るようにってご指名だぞ?」
嫌な予感しか浮かばない私を余所に店長はとんでもないことを言った。
「『えぇっ!?』」
またしても更に驚く私。
え!?知り合いってどういうこと!?
っていうか今なんで土方さんまで驚いたの!?
「本当なのか!?」
私に食らいつくように聞いてきた土方さん。
捕まれた腕が少しだけ痛い。
ちょっ…!なんか土方さん恐いんですけど!
『や、本当ただの知り合いです。っていうか顔見知り程度です!』
うん、あんなやつ顔見知り程度で充分だよ!
「とにかく、早く持って行って!」
早く行けと言わんばかりに私を見つめる店長。
『店長あの、これ私が運ばなくちゃダメですか?』
できればVIPなんて危険な場所に行くのは避けたい。
つーかご指名なんて聞いちゃ尚更行きたくない。
「俺が行ってこようか?つーか俺が行く。」
俯く私に聞こえたのは土方さんの神様のような声。
『本当ですか!?あり』
「ダメダメ!絶対ダメ!」
ありがとうございますと言おうとしたのに焦りながら遮ってきたのは店長。
「土方お前VIPのお客様と仲悪いだろ!?お前が顔合わせたら前みたいにVIPルームが崩壊しちまうだろ!!」
えぇ!?崩壊!?
あれ?そういえば私がここに働き出す前に一度VIPが壊れかけたことがあるって聞いたような…
もしかしてそれって土方さんが原因だったの!?
「や、大丈夫っすよ。」
「全っっ然大丈夫じゃないから!!また崩壊したら今度こそ本当俺死ぬから!!」
今にもVIPに向かおうとする土方さんを必死に止める店長。
前回崩壊したとき店長どんだけ苦労したんだろ…
『土方さん。』
「ん?」
やっぱり私のわがままのせいで店長や土方さんには迷惑かけられない。
『私が行ってきます。』
そう言って今だに猛反対する土方さんからドリンクを受け取ってVIPルームまで歩き出した。
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