知らなかったんだ、病気が悪化していたなんて。


いつだって二人で幸せそうに笑うから、全然気付かなかった。


死に際さえ二人一緒だなんて、本当に笑えてしまうくらい。



最後の言葉が『名前、ごめんね。』だったんだって。



そんなこと聞きたかったんじゃない。


そんなこと言わせたかったんじゃない。


まだ、生んでくれてありがとうって言えてない。


二人の子供で幸せだったって伝えてないのに。



そんなことに気付いた時に私には、もう何も残ってなかった。

泣いても泣いても、二人は帰ってこない。


胸の痛みを救ってくれる人なんて誰もいない。


何も知らないまま、私は全てを失ってた。


ただ一つ残ったといえば、両親の借金だけ。



最初は、両親の死と一緒に借金を放棄する予定だった。


だけど、親戚のみんなが"死んでよかった、仕方なかった、名前は両親のせいで不幸だった"、なんて言うから。


それが悔しくてどうしようもなくて、意地になって自分が返しきってやるって啖呵きってしまった。



……この選択が間違っているって言われたら、そうなのかもしれない。


だけど私は後悔なんて一度もしてない。


だって、ちゃんと幸せだから。


この環境じゃなきゃ出逢えなかった大切な人がたくさんいる。


だから、両親には感謝してるんだ。



本当に、産んでくれてありがとうと。





晋助を見れば、晋助は真っ直ぐ私を見ていた。




『……いつでも笑ってようって、決めたんだ。』


両親の様に、苦しいことも楽しくできたら、きっともっと幸せ。


……なのに最近は深く考てすぐに暗くなっちゃってて。


こんなんじゃ、きっと両親も天国で笑えないよね。




『よし!キレイになった!』


話ながらも磨きあげたお墓は、来たときよりも数倍もキレイになった。


それはまるで両親が笑っているようにも見える。


『私、頑張ってみるよ!』


もっと、幸せだって笑えるように。


『いつか、両親みたいな夫婦になりたいの!いつも通じあってて、くだらないことでも笑ってるような、ね。』

「……そうか。」

『うん!それで、死ぬまで一生愛し合ってるの!



……なんてね!これは完全に私の願望なんだけどね。』


そう吐き出せば、晋助は少しだけ驚いたような顔で私を見た。



 
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